無人店舗研究所 UNMANNED RETAIL LAB

無人コーヒー店は成立するのか?障害福祉の課題から生まれた「無人珈琲ふらった」の挑戦

今回は、無人コーヒー店「無人珈琲ふらった」を手がける原さんにインタビューを実施しました。無人店舗を始めた背景から、立ち上げ時の苦労、運営の実態、今後の展望まで、実務目線で詳しく伺っています。

株式会社ケアビィ代表取締役 原翔大(はら しょうだい)氏

  • 精神保健福祉士として、精神病院、グループホーム等に勤務
  • 2020年8月~株式会社ケアビィを代表取締役として創業
    GH、訪問看護事業、訪問介護事業、相談支援事業、コーヒー事業部を創業、経営
  • 2024年5月、代表取締役を退任。
    裏方としてケアビィを引き続きサポート。
  • 2025年2月、株式会社ケアビィより分社化した株式会社ニトにて、新規事業開発を担う

Q. まず、「無人珈琲ふらった」がどのようなお店なのか教えてください。

A. 一言で言うと、無人のコーヒー屋です。ただ、いわゆるカフェ的な店舗というよりは、カルディさんのようなコーヒー豆に特化した物販店に近いイメージです。コーヒー専門の無人店舗ですね。

Q. 原さんご自身は、なぜ無人ビジネスでコーヒーという業態を選ばれたのでしょうか?

A.実は僕自身はコーヒーを日常的に飲むタイプではなく、個人的な好みだけで始めた事業ではありません。市場性やお客様のニーズを見ながら事業を立ち上げ、商品の品質については専門的な知見を持つメンバーと連携しながら作り上げてきました。
ただ、店舗を立ち上げた前提として、僕のバックボーンはかなり影響しています。もともと障害福祉の業界で10年ほど事業をやっていて、住まいの支援や訪問介護、訪問看護などを手がけてきました。
その中で、障害のある方が働く就労継続支援の現場にも関わってきました。福祉事業を運営する中で感じていた課題と、コーヒー事業を展開する中で得た経験を組み合わせ、新しい仕組みを作れないかと考えたことが現在の事業につながっています。

Q. 障害福祉の現場で、どのような課題を感じていたのでしょうか?

A. 一番大きかったのは、就労支援の現場における工賃向上の難しさです。利用される方に、より高い工賃を還元できる仕事を作ることが重要だと感じていました。

その背景には制度上の構造があります。施設には、建物の広さや設備など、認可を受けるための要件が細かくあります。そうすると、施設の中で何かを作って、そのまま高く売るというのが難しいんです。

そこで、製造と販売を分け、継続的に商品を販売できる仕組みを作ることで、より高い付加価値を生み出し、その一部を就労支援の現場における仕事や工賃の向上にもつなげられるのではないかと考えました。
その発想から、最初は新宿で有人のコーヒー店を始めています。

つまり、いきなり無人だったわけではなく、まずは有人店舗から始めて、そこから仕組みを見直して今の形にたどり着いたという流れです。

Q. その仕組みは、現在すでに実現できているのでしょうか。

A.当初は自社でB型事業所を立ち上げることも検討していましたが、現在は既存の就労支援事業所と連携する形を中心に進めています。複数の事業所と相談しながら、品質を維持した上で、製造工程の一部に障害のある方にも携わっていただける仕組みを構築しています。

一方でB型事業所側も工賃を上げることに課題を抱えているところが多いんです。そこで、就労支援事業所と少しずつ連携を進め、コーヒー商品の製造工程の一部を担っていただく仕組みを作っています。すべての製造をお願いするのではなく、工程ごとに役割を分け、品質管理や重要な工程については一定の基準を設けた上で連携していく形です。

今後はフランチャイズ展開も視野に入れており、無人店舗を増やしながら、それに対応できる製造体制も整えていきたいと考えています。その中で、就労支援事業所にも製造工程の一部を担っていただき、継続的な仕事につなげていくことを目指しています。

Q. なぜ有人ではなく無人店舗という形を選ばれたのでしょうか?

A. もともと新宿で有人店舗を運営していた中で、人がやらなくてもいい仕事がかなりあると感じていたんです。

少子高齢化も進んでいますし、AIも含めて、人がやるべき仕事と自動化できる仕事は分かれていくべきだと思っています。そうやって、人は本当に必要な仕事にシフトしていく時代になるだろうという課題感がありました。
それに加えて、現実的な問題として、有人店舗は初期投資がかなり大きいんです。
新宿の店舗は初期で2000万円くらいかかっていました。新宿という立地だからこそ、そこまでかけないと勝てないという判断もありましたが、このモデルをそのまま大量に増やすのは難しい。そこで省力化できるところを削っていった結果、今の無人コーヒー店の形になりました。

Q. 初めての無人店舗を立ち上げるにあたり、どのような点を重視されたのでしょうか。

A. 完全に無人の店舗を作ったという意味では今回が初めてだったので、かなり勉強しました。
無人店舗って一時期かなり増えましたが、その後かなり潰れていますよね。その中で残っている店舗を見ていると、やはり立地がいい。そこはかなり意識しました。
商圏人口や1時間あたりの通行量など、飲食や小売の大手が見るような指標はかなり細かく見ています。狛江を選んだのも、単に物件が良かったからではなく、強豪がいるエリアで勝てるかを見たかったからです。近くにはカルディさんも含めて6店舗くらいコーヒー店がある激戦区です。
今後は直営をどんどん増やすというより、フランチャイズ展開を考えているので、まず1店舗で「このモデルは勝てる」とオーナーさんに思ってもらう必要がありました。
だからこそ、あえて強豪がひしめく場所に出したんです。

Q. 参入時に特に重視した判断軸は何でしたか?

A. 一番大事にしたのは、お客様にメリットがあるかどうかです。これまで難しかった無人店舗を見ていると、無人なのに高いというケースが多かったんですよね。でも、それでは選ばれにくい。
スーパーが安いのは、さまざまな工程を内製化してコストを削っているからです。うちの場合は、今後さまざまな製造パートナーと連携し、一部の工程では就労支援事業所とも協力していくことを前提に、効率的な製造体制と価格設計を進めています。さらに最終的には、買い付けも自分たちで行って専門商社のような形になりたいと考えています。そうすることで、もっと安く届けられる可能性があります。
この事業は、単に無人店舗を作りたいからではなく、達成したい理由が明確なんです。そういう目標があるからこそ、ここまで積み上げてこられたと思っています。

味づくりに関しても、企業秘密なので細かくは言えませんが「ここを押さえればお客様に美味しいと感じていただけるクオリティになる」というポイントはかなり意識しています。その部分については、入ってくれているコンサルの方が非常に優秀でした。

Q. 立ち上げ時に苦労したことはありましたか。

A. 数字だけ見ると、最初から利益は出ていました。初月からずっと利益は出ていたんです。ただ、最初に想定していたよりは伸び方がゆるやかでした。最終的には投資開始から2年くらいでかなり伸びてきたのですが、初動は思ったよりいかなかったですね。
やっぱり小規模店は、お客様が積み上がっていく形なんです。1回ここで本当に美味しいと感じてもらえれば、その後ずっと来てくれる。そうやって積み上がって今の数字になっているんですけど、最初は「新しくできたんだな」で通り過ぎられることも多いですし、「すぐ潰れるんじゃないかな」と思われたりもするので、認知を取るまでに時間がかかりました。

 

Q. 集客はどのように行っているのでしょうか。

A. 公式LINEにはかなり力を入れていますし、チラシも打っています。Instagram広告も回しています。やっていること自体は、一般的な店舗の集客施策と大きくは変わりません。
ただ、実感としては圧倒的に立地の力が大きいです。Instagram広告を見ただけで登録することはほぼないと思っていて、実際には一度店を生で見て、「あ、この店か」と認識した上で来店につながっているはずです。そう考えると、やはり立地の影響はかなり大きいですね。
外観もかなり意識しています。看板も強いですし、夜もライトで照らされていて、昼夜どちらも目を引くようにしています。24時間営業という無人店舗ならではの強みがあるので、夜9時、10時以降など、他のお店が営業していない時間にも売れるんです。そこはかなり強いポイントだと思っています。

Q. リピートされるお客様にはどのような特徴がありますか。

A. ほとんどが半径1km圏内の近所の方ですね。その上で、やはりコストパフォーマンスがいいと感じていただけていると思います。
僕らが目指しているのは、スペシャルティコーヒーなのにカルディさんと同等に近い価格で買える状態です。味の質は高いのに値段は近い。その部分に価値を感じていただけているのではないかと思います。

Q. 日々のオペレーションはどのように回しているのでしょうか。

A. 今は新宿のお店で焙煎して、それを届ける形になっています。ただ、新宿の焙煎機が小さいので、もう1晩ほぼ回さないと追いつかないくらいなんです。ありがたいことにかなり売れているので、供給が追いついていない状態ですね。
夜に人が焙煎機を回して、その後商品を届けて、清掃もする。そういう流れなので、ほぼ毎日動いています。運営体制としては、新宿の店舗側と無人店舗側が連携しながら回している形です。完全に切り離して無人だけで動かしているわけではなく、人力と連携しながらやっている感じですね。今のところ、そうしないと回らないです。

Q. 今後さらに売上が伸びた場合、供給体制は大丈夫なのでしょうか?

A. 今後の店舗拡大に対応するため、複数の製造拠点との連携を進めています。その中の一つとして就労継続支援B型事業所などとも連携し、製造工程の一部に障害のある方にも携わっていただく予定です。今後さらに店舗が増えた場合にも安定して商品を供給できるよう、現在は複数の製造パートナーとの連携を進め、供給体制の拡充を行っています。
製造自体は、良い機械が入ればそこまで難易度は高くありません。焙煎も含めて、今はかなり機械が進化していて、ボタン1つで動かせるものもあります。ただ、場所や設備、タイミングの問題はあります。
現在は、既にコーヒー製造を行っている事業者だけでなく、新たな仕事づくりや工賃向上を課題としている就労支援事業所とも連携について話を進めています。

就労継続支援B型事業所にとって、利用される方の工賃向上は重要な課題の一つです。そのため、継続的に受注できる仕事を作ることには大きな意味があると考えています。

そこで、事業所ごとの設備や得意な作業に合わせて、製造工程の一部を担っていただき、一定の品質基準を満たした商品を継続的に仕入れる形で連携を進めています。
反響自体は悪くないです。かなりの数のファックスを送って、1000程度の事業者にアプローチして、20件ほど反響が来ることもあります。就労支援事業所との連携については、それぞれの事業所の体制や設備、自治体ごとの状況なども踏まえながら進める必要があるため、一つひとつ丁寧に体制を整えています。

工場側と無人店舗のオーナー側のタイミングを合わせていかなければいけないので、そこは今まさに課題になっているところです。

Q. 無人運営ならではのメリットはどこにあると感じていますか。

A. やはり、人のマネジメントが楽になることですね。もちろん無人の方が難しい部分もあります。短い時間で何をやってもらうか、遠隔でどこに注意するかなど、設計や管理の難易度は高いです。ただ、それをきちんと整理して仕組みにしてしまえば、その後の運用で管理側にかかるコストは減ります。そこは無人の大きなメリットだと思います。

Q. 防犯面ではいかがでしょうか。

A. 意外かもしれないですが、万引きは年1回くらいしか起きていません。もちろん街の雰囲気もあると思いますが、コーヒーという商品自体が嗜好品で、転売しにくいというのもあると思います。鮮度もありますし、大量に持っていってもそんなに高く売れるものではないですからね。
ただ、それだけではなくて、店として無人感を出しすぎないようにしています。監視カメラはもちろんありますが、それ以上に、お客様との距離が遠くなりすぎないように意識しています。ノートを置いたり、気遣いが伝わるものを用意したり、InstagramやLINEでも人が関わっていることが伝わるようにしています。無人店舗って無機質になりがちなんですけど、そこに人がいる感覚を出すことが、結果として防犯にもつながっていると思います。

Q. 今後の展開について教えてください。

A. 僕は、100億稼ぐことよりも、1000年続くとか、何百年続くことに価値があると思っています。少子高齢化という社会課題と、障害福祉の業界側の課題の両方を解決していくようなモデルは、かなりしっかり作れたと思っています。
これを一過性のものにするつもりはありません。全国に出せるモデルだと思っていますし、文化や世の中を変えていけるような事業にしたいと思っています。

Q. 無人店舗ビジネスの今後については、どのように見ていますか。

A. 意外と大事なのは、業態そのものよりも「誰がやるか」だと思っています。ちゃんとお客様の思考を読み取って、臨機応変に対応しながら、最初の設計からお客様にメリットがある形を作れているかどうか。運営側が楽だからという理由だけで進めるのではなく、あくまで消費者にとってしっかりメリットがある形にして、それを継続的に改善できる会社が入ってくるのであれば、かなり勝ちやすいと思います。
残っている無人店舗を見ても、うちや無人古着屋さんのように、お客様に明確なメリットがあるところは残っています。最初の戦略設計から改善までをきちんとやれる人間や組織がやるのであれば、業態によっては無人化が当たり前になるものも出てくると思います。

最後に、これから無人ビジネスに参入する方へメッセージをお願いします。

A. 結局は、消費者にとってのメリットとデメリットをしっかり考えることがすべての根本だと思います。僕らがどんなビジョンを描いていても、お客様には関係ないんですよね。お客様が生活の中で、何かしら「ここを選ぶ理由」を持てるようにしなければいけない。
そこを設計した上で、現実性、実現可能性、持続可能性まで全部考え切ることが大事です。
店舗を出すだけならリスクが低く見えるかもしれませんが、そこまで全部設計するとなると、お金もかかるし、いろいろなリスクも出てきます。そこまでやり切る気概を持てるのであれば、勝てるんじゃないかなと思います。

 

【店舗概要】

https://youtube.com/shorts/hK8bbec1ulw?si=oQygcCyh7GQAHuPH
商号:無人珈琲ふらった
所在地:〒201-0014 東京都狛江市東和泉1丁目16−7
24時間営業・無休
URL: https://www.instagram.com/mujin_coffee_flutter/

実際の店舗の様子をご覧いただけます!

【編集後記】無人珈琲 ふらった三鷹店が新規OPENしたので見学に行ってきました!

無人店舗研究所の編集部が、2026年6月28日に新規オープンした「無人珈琲 ふらった三鷹店(Instagram)」へさっそく現地見学に行ってきました!

ここでは、実際の店舗の様子や、無人店舗ならではのユニークな工夫を写真とともに解説します。

■ 三鷹店が2026年6月28日新規OPENしました!

無人店舗研究所の編集部が現地に見学に行きました!

お店は通りに面しており、黒を基調としたおしゃれなオーニングテントが目印です。「厳選焙煎珈琲 無人販売店」という大きな文字がパッと目を引きますね。ガラス張りで中の様子がよく見えるため、初めての方でも安心して入りやすいオープンな雰囲気です。

■ 無人店舗だからこそのメリットを通行人に伝える看板

店舗のガラス面には、「ふらったのコーヒーは、なぜ安くて美味しいの?」というポスターが掲示されています。

  • 理由その① 無人店なので低コスト。 (人件費をカットし品質に還元)
  • 理由その② 仕入れにはお金をかけている。 (各国のトップクラスのコーヒーを厳選)
  • 理由その③ 焙煎工場直送焙煎で鮮度がいい。 (焙煎後21日以内の豆のみ販売)

このように、無人店舗であることを「安さ・美味しさの理由」としてポジティブに変換し、通行人にしっかりと伝える工夫が素晴らしいですね。

■ お客様との温かい交流が生まれる「コミュニケーションノート」

店内には、利用者の方が感想や要望を自由に書き込めるノートが設置してあります。 オープン間もないにも関わらず、すでにたくさんのコメントがびっしりと書かれています!

「スイーツあるのも最高!!」 「カフェインレス買いたかったのですが売り切れているようでした」 「豆補充しました(スタッフ)」

など、お客様のコメントに対してスタッフさんが一つひとつ手書きで丁寧に回答しており、温かい相互コミュニケーションが生まれています。 無人店舗は直接接客ができないからこそ、こういったアナログなコミュニケーションツールを用意しておく仕組みは非常に効果的だなと感じます。

■ その日の気分に合わせて選べる!ユニークなドリップパック

壁面にずらりと並んでいるのは、その日の気分に合わせて選べるドリップパックのシリーズです。

  1. ゾーンに入りたい時の珈琲
  2. 覚醒したい時の珈琲
  3. 魂から癒されたい時の珈琲
  4. やる気が出ない時の珈琲
  5. 無になりたい時の珈琲
  6. 自分を甘やかしたい時の珈琲
  7. チルアウトしたい時の珈琲

「無になりたいとき」「ゾーンに入りたいとき」など、それぞれのユーモアセンスを感じるネーミングがとても楽しいですね! 「今日はどの気分かな?」と毎回気分を変えて選べる要素があると、お客様を飽きさせず、「また来たい」と思わせるリピートの仕掛けとして非常に秀逸です。

■ 大人気のテイクアウト自動販売機も完備

ふらったで大人気の「工場直送コーヒーのテイクアウト自動販売機」が、もちろん三鷹店にも設置されています。 ホット・アイス、ブラックやカフェオレなど豊富なメニューが揃っており、24時間いつでも淹れたての美味しいコーヒーが楽しめます。

■ 最後に

代表の原さん(写真右)と、三鷹店オーナーのヤシロさん(写真左)。 とても気さくで熱意あふれるお二人でした。本日はご案内いただき、本当にありがとうございました!

無人でありながら「人の温もり」や「楽しさ」を感じられる、素晴らしい店舗でした。お近くにお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

関連記事

RELATED