近年、あらゆる業界で導入が進む「店舗の無人化」。人手不足の解消や24時間営業の実現などメリットが注目される一方で、運用の手間に耐えかねて閉業を余儀なくされるケースも少なくありません。
特に専門的な知識や説明が必要とされる「道具」を扱うビジネスにおいて、無人店舗はどのように成立しているのでしょうか。今回は、中古登山用品の買取・販売専門店「maunga(マウンガ)」を展開し、24時間営業の無人店(石神前店)を4年間トラブルなしで運営している株式会社One Nature 代表・遠藤浩史氏にお話を伺いました。
有人店のアセットを徹底的に活かすオペレーションと、顧客の利便性から逆算された無人店舗経営のリアルに迫ります。
Q. 事業の概要と、無人店舗(石神前店)を始められたきっかけを教えてください。
遠藤浩史氏(以下、遠藤):
弊社では現在スタッフの常駐する通常の有人店舗を3店舗と、365日24時間いつでも自由に出入りして買い物ができる無人店舗である石神前店を1店舗運営しています。
無人店舗を始めたきっかけは、もともとこの場所を当社の倉庫として借りていたことです。倉庫のスペースに比較的余裕があったため、その一角を区切って無人店舗にしてみようという流れになりました。
そのため、事前にどれくらい集客ができるだろうかといった、緻密な見込みや勝算を立てていたわけではありません。
無人店舗をはじめようとして始めたというよりは、有人店舗を運営していく中で余っている倉庫スペースを有効活用したいという意図が先にあり、実験的なところからスタートした形です。
Q. 初めての無人店舗で心配だった点と、実際のトラブルの有無はいかがですか?
遠藤:
私たちにとっても初めての試みだったため商品が盗まれてしまうといった防犯面のリスクについては、どのようなことが起こり得るのかを想像しながら準備を進めました。始める前に一番心配していたのは、やはりこのセキュリティ面です。
しかし幸いなことに、オープンしてから4年間、特段のトラブルや課題は出ていません。
理由として考えられるのは客層で、店舗がある場所は東京ではありますが山間部に位置しています。そのため、不特定多数のいろいろな方が来られるというよりは、登山が好きな方がいらっしゃる立地です。
そうしたお客様の良識に支えられている部分が大きく、盗難などの問題なく運営できています。
Q. 具体的にはどのような遠隔管理・運用体制をとられているのでしょうか。
遠藤:
私たちが特別な防犯設計を施したというよりは、そうした行為をする方がいらっしゃらないという環境で成り立っている商売です。
ただ、遠隔の管理体制としては、お店にカメラを設置して常に動かしていますので、そこから店内の様子を拝見させていただいています。
そのカメラを確認しつつ、日々スタッフや私が直接店舗に赴き、商品の補充を行っています。
そのため無人であることによって新しく生まれたような、特別な業務というのは特にありません。
Q. 実際に無人店舗を運営してみて気づいた、想定外の顧客ニーズなどはありましたか。
遠藤:
全体的にはおおむね想定の範囲内ですが、自分の予想より深夜の時間帯に使ってくださるお客様がいるんだな、というのは新しい気づきでしたね。
夜中の1時や2時といった時間帯に購入されていることもあります。
おそらく、朝一から山に登るために、少し早めの時間帯に現地や登山口の近くに来ていらっしゃるのだと思います。
「現地に来てみたら寒かったから服が足りない」という理由で、夜中に買ってくださるような流れがある気がします。そもそも夜中や深夜帯に登山用品を購入できる場所は他にないので、登山者特有のライフスタイルにうまく合致したのだと感じます。
Q. 無人店舗でありながら常連のお客様にリピートされる理由と、商品の補充サイクルを教えてください。
遠藤:
私どもは中古の登山用品を扱っておりますので、商品はすべて一点モノしかありません。
買い取りによって回っている一点モノの商品が日々新しく入荷してくるため、お客様にとっては「今日はどんな品が入っているかな?」という楽しみがあり、それを期待して宝探しのように見にいらっしゃっているのだと思います。
補充のスケジュールに関しては、特定の曜日と決めているわけではなく、メンテナンスが終わったものを店舗の売り上げ具合や在庫状況を見ながら随時お出ししています。
例えば全体的に見てリュックサックが減っているようであればリュックサックを優先的に補充する、といった形で店内のバランスを見ています。
Q. 現在の無人店舗における集客やマーケティングはどのように行っていますか?また、もし既存の知名度や有人店がない状態からゼロベースで無人店舗を立ち上げていた場合はどうなっていたでしょうか?
遠藤:
特にお金をかけた大々的な集客や広告は打っていません。自分たちのSNSでの発信だけという形です。もともとずっと有人店舗としてお店を運営していたので、そこを知ってくださっている方が訪ねてくださるというパターンが大きいです。
自分たちにどれほどファンがいるのかはよく分からない部分もあるのですが、もし既存の有人店舗がなく、店の認知もSNSのアカウントもない状態で、完全にゼロから無人店舗を出すとなると、集客はなかなか難しいだろうという気がします。
Q. 専門知識や接客が必要な山道具を無人で販売する難しさと、それに対するサポート体制を教えてください。

遠藤:
やはり、山道具は道具なので機能が付随しますし、中古品でもあるため、どうしても説明が必要な部分があります。
例えば「こういう仕様は小柄な方向けですよ」といったお話や、ダメージの状態をご理解いただいた上で、有人店舗では販売しています。
商品の状態や使い方のイメージがご自身でできる方であれば無人でも買いやすいですが、イメージが難しい方だと、無人店舗では「これ大丈夫かな」という不安な部分もあるのではないかと感じています。
本当に登山用品として、道具として見たときには、無人店舗はある程度知識の分かる方じゃないと買いづらいのかな、というのは個人的には思います。
そこを補完するために、有人店舗の営業時間内であれば、お電話やLINEでその場で質問にお答えできる準備を無人店舗でもしています。
電話をもらえれば、その場で「その商品はこういうものです」というお答えをするようにしています。弊社は有人店舗の方に常時スタッフが2名ずつくらい、全体で3〜4名ほどおりますので、無人店舗から電話が来ればそこで応対していく形をとっています。
Q. 今後の多店舗展開や、現在の1日あたりの来店客数について教えてください。
遠藤:
現状は無人店舗をもう1店舗出そうということは考えていません。
やはり道具をしっかり納得して買っていただくためにも、もし新しく出すのであればやはり有人の店舗をもう少し増やしたいなという希望があります。
ちなみに、現在の石神前店には1日に多い時で10名ほど、場所柄、少ない時はほとんどゼロという日もあります。
有人店舗と同じで、シーズン的に春や秋の忙しい時期になれば、立ち寄ってくださる方が増えるという形ですね。
Q. 店外に設置されている24時間対応の買取回収ボックスの仕組みと、査定のスピード感を教えてください。
遠藤:
外の回収ボックスに売りたいものをポンと入れていただき、店内に用意してある紙やメール・LINEでご連絡をいただければ、僕らが回収・査定をしてご連絡する仕組みです。
お待たせしないように基本的には翌日くらいには査定をしてご連絡し、ご了承をいただければ口座へお振込みをしています。翌日査定というスピード感で対応しているため、回収量も多くなっています。
Q. ほぼ毎日店舗へ直接確認に行かれているとのことですが、今後のAI化などの検討も含めて管理体制のこだわりを教えてください。

遠藤:
回収ボックスに関しては、カメラでも状況は分かるのですが、見落としを防ぐため、確実にほぼ毎日直接店舗に見に行くことを心がけています。
現金などもアナログでボックスに入れている形ですので、万が一持って行かれてしまったら困るという課題はあるからです。実際にはそうしたトラブルは起きていないのですが、確実に見に行くようにしています。
4年間無人店舗をやっていて何もトラブルなく運営できているのは、本当に日々お客様に支えられているからだと感じています。
また、今後問い合わせ対応などをAI化することは現状考えていません。専用のAIチャットなどを設置することも、今は必要性をそこまで感じていないというのが正直なところです。
例えば問い合わせが多くてスタッフの人数で対応が間に合っていないという状況であれば考えるでしょうが、現状そこまでではないですね。
僕らの場合は有人営業と並行してやっているので、何かあれば店からすぐにお答えができる体制があります。
いつでも手厚く対応できている点は、他の無人店舗とは少し違う強みかもしれません。
Q.無人店舗にこれから挑戦する方へのアドバイスをお願いします。
遠藤:
有人店舗であっても無人店舗であっても、お客様が使いやすくて利便性が良く、気に入って買って頂けなければ意味がないですからね。
もし「やってみたい」と思っているのであれば、絶対にやった方が良いというのが僕の考えです。
無人営業は頭の中で想像しているだけよりも、実際にやってみることで、プラスの良い方に転換できることもいっぱいありますから。
Q. 最後に、無人の登山用品店というジャンルの可能性や、来店したお客様に選ばれる店舗の共通点を教えてください。
遠藤:
私たちの扱っている「無人の登山用品店」という形態に関しては、先ほどお伝えした通り「夜中にどうしても物をゲットしなければならない」という登山者特有の深夜ニーズが実際に存在するため、ビジネスとして非常にありだと思っていますし、もっと増えてもいいなと思います。
最終的にはどんな店舗であっても、ご来店されたお客様がワクワクしない店舗では買っていただけないと思うんですよね。気分が上がらないところはやっぱり買いたくないですし、それはどの店舗でも同じだと思います。
私たちの店舗(石神前店)の場合は、商品が中古の一点モノであり、売れてしまったらなくなってしまうという「宝探し感」が一番強い魅力です。
だからこそ、できるだけ多くのお客様に探してもらえるよう少し見にくいかもしれないですが、店中にいっぱい商品を陳列しておくということは心掛けています。そして、その中から探してもらう楽しさがあります。
私たちのような形態以外にも、もしこの無人という形態での店舗運営に興味がある方がいらっしゃれば、ぜひ楽しんでチャレンジしてみてほしいですね。
【店舗情報】

maunga 石神前店(無人店舗/買取BOX)
住所:東京都青梅市二俣尾1-249-1
営業時間:24時間営業
決済方法:現金(過不足がない場合のみ)、QR決済(PayPay、LINE Pay、merpay、d払い)
営業日:無休
Tel / Email:―(御岳本店、吉祥寺店へご連絡下さい)
アクセス:JR石神前駅より徒歩2分
駐車場:有り(10台)
URL:https://www.maunga.jp/?tid=10&mode=f4