新型コロナウイルスの流行を背景に、自宅で過ごす時間が増えたことで空前のブームとなった「メダカ飼育」。美しい品種の交配や、手軽に始められる癒しの趣味として、今もなお多くの愛好家を惹きつけています。
そうした中、神奈川県横浜市で非常にユニークなビジネスを展開しているのが「横浜めだかファクトリー」です。同店はなんと、地元の「遊休スペース」を活用し、メダカの無人販売所を運営しています。生き物を無人で販売するという特殊な形態でありながら、低コストで堅実な運営を実現しているその裏側には、どのような工夫があるのでしょうか。
今回は、横浜めだかファクトリーの代表に、無人店舗を立ち上げた経緯から、生体管理の徹底したオペレーション、SNSを活用した集客戦略、そして今後の「生体×無人ビジネス」の展望まで、たっぷりとお話を伺いました。
宍戸孝昌様

家賃はローコスト。「遊休スペース」を活用した超・低コストな無人店舗モデル
ーー本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは、神奈川県横浜市で「メダカの無人販売所」という非常に珍しい形態のお店を始められたきっかけについて教えてください。
横浜めだかファクトリー代表(以下、代表): ありがとうございます。もともと私自身が生き物が大好きで、メダカの繁殖や飼育を行っていました。そんな中、同じメダカ業界の知人が無人店舗を始めたという話を耳にしたのが直接のきっかけです。無人店舗という形態が、どのようなサービス内容で、どういった立地条件を重視して展開されているのか非常に興味を持ち、自分でも挑戦してみたいと考えるようになりました。
とはいえ、始めたばかりの頃は前例も少なく、場所を貸してくれないところも多かったため、試行錯誤の連続でした。有人のアクアショップなどはたくさんありますが、完全に無人で生体を販売している場所はまだまだ少ないですからね。
ーー現在の店舗は「遊休スペース」を活用されていると伺い、大変驚きました。具体的にどのような店舗形態なのでしょうか。
代表: はい、敷地内のちょっとした空きスペースをお借りして営業しています。簡易的な屋根を設置し、その下に水を入れた容器を並べてメダカを展示・販売しているという、非常にシンプルなスタイルです。
縁があって、このスペースをお借りできることになり、メダカの無人販売という組み合わせが実現しました。少し空いているスペースに料金箱を置いて「無人でもやってますよ」というスタイルは、全国的に見てもかなりレアなケースだと思います。
ーー無人店舗で気になるのはコスト面ですが、家賃などの固定費はどのようになっているのでしょうか。また、屋外・無人ということで盗難などのリスク対策はどうされていますか?
代表: 家賃としては、ご厚意や相場に合わせた非常に良心的な価格、かつリーズナブルな金額でお支払いしています。一般的な店舗物件を借りるのと比べると、圧倒的に固定費を抑えられています。
盗難などのリスク対策については、防犯カメラをしっかりと設置しています。防犯カメラの維持費などはかかりますが、家賃と合わせても月の固定費はかなり低く抑えられています。また、人目につきやすい環境も、結果として良い防犯効果を生んでいると感じています。ニュースなどで取り上げられることもありましたが、この超低コストな運営モデルが組れているのは、非常に恵まれていると感じます。
生体管理のハードルを越える「日々のケア」と温度管理の工夫
ーーメダカの繁殖をされながら店舗を運営していくのは、特に最初の頃は大変だったのではないでしょうか。
代表: そうですね。ただ、もともと生き物が好きで、メダカを増やすこと自体が楽しくて仕方なかったので、苦にはなりませんでした。メダカはコツさえ掴めば飼育も比較的簡単ですし、初心者でも増やしやすい生き物です。
最初は自分の趣味の延長として、自宅で増えすぎたメダカを「お裾分け」するような感覚で販売所に出していました。それがだんだんと規模が大きくなり、本業として成り立つようになっていったという経緯です。
ーー無人販売において一番難しいのは「生体の健康管理」だと思います。昨今は夏の猛暑や冬の寒さなど気候変動も激しいですが、水温や湿度の管理はどうされているのでしょうか。
代表: 生き物を扱っている以上、そこは絶対に手を抜けません。毎日必ず店舗へ足を運び、餌やりや手入れ、水替えのメンテナンスを行っています。
温度管理については、発泡スチロール製の保温ボックス(容器)などを活用して水温の急激な変化を防いでいます。実は、メダカという生き物自体がかなり丈夫で、日本の気候に適応しやすいんです。特に寒い時期には強いですね。夏場の猛暑の時だけは、パック詰めした容器を水に浮かばせて水温が上がりすぎないように調整するなど、季節に合わせた工夫をして鮮度と健康を保っています。
ーー店頭に並べる際の種類や在庫管理はどのように行っていますか?販売所を見かけた際、非常に多種多様なメダカがいて驚きました。
代表: 在庫管理に関しては、厳密なシステムを入れているわけではありません。「何の種類が何匹いるか」を記載し、日々の手入れの際に個体数をチェックして補充していくというアナログなやり方です。
種類についても、その時の繁殖状況や季節に合わせてラインナップを変えています。お客様がケースを上から覗き込んだときに、「この柄が綺麗だな」「色んな種類がいるな」と楽しんでいただけるよう、多様性を意識して展示しています。
「無人だからこそ」の顧客メリットと、SNSを駆使した集客戦略
ーー無人のメダカ販売所を利用されるお客様は、どのような方が多いのでしょうか。また、リピーターの方はいらっしゃいますか?
代表: やはりベースとして生き物が好きな方や、アクアリウム好きの方が多いですね。「この特定の品種のメダカが欲しい」と目的を持って来られるマニアックな方もいらっしゃいます。
コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたことで、室内で飼えるペットとしてメダカブームが到来しました。今はそのピーク時に比べると少し落ち着いてはいますが、それでも癒しを求めて購入される方は根強く、何度も足を運んでくださるリピーターの方も確実にいらっしゃいます。
ーーお客様にとって、対面販売ではなく「無人販売」であることのメリットはどこにあると感じていらっしゃいますか?
代表: 一番大きなメリットは「人の目を気にせずに、ゆっくりと時間をかけて個体を選べること」だと思います。
メダカは、上から見たときの柄(上見)や、横から見たときの光沢など、見る角度によって全く表情が異なります。愛好家の方々は、「どの子の柄が一番綺麗か」「どの子を連れて帰ろうか」と、ケースを色々な角度から見てじっくりと悩みたいんです。
もし店員が横に立っていたら、「早く決めなきゃ」とプレッシャーに感じてしまうかもしれません。無人であれば、誰にも急かされることなく、自分が心から納得のいく個体をゆっくり探すことができます。この「気兼ねなく選べる空間」が、お客様の満足度に直結していると感じています。
ーー集客についてはどのように行われているのでしょうか。通りがかりだけではなかなか見つけてもらいにくいかと思います。
代表: おっしゃる通り、立地だけでは集客に限界があります。そのため、InstagramをはじめとするSNSの活用には非常に力を入れています。
私たちの店舗を知って足を運んでくださる方の多くは、SNS経由です。日々のメダカの様子や、新しく店頭に出した品種の情報などを写真や動画でこまめに発信することで、「今日行ってみようかな」という動機付けに繋がっています。無人店舗こそ、ネット上での発信力やコミュニティ作りが生命線になると考えています。
今後の展望「生体×無人ビジネス」の未来とお客様目線の店作り
ーー今後の事業拡大や、新しい取り組みについて検討されていることがあれば教えてください。
代表: 多店舗展開や事業の拡大については、もちろん可能性を探っています。メダカは小さなスペースでも販売できるため、様々な場所の空きスペースや「間借り」といった形での出店需要は高いと感じています。
ただ、私たちのビジネスの根幹は「生き物の命を扱うこと」です。むやみに店舗数を増やした結果、管理が行き届かなくなってしまっては本末転倒です。ですので、「私たちが毎日責任を持って手入れや掃除ができる範囲」の中で、どこまで広げていけるかという点が今後の課題であり、挑戦だと考えています。
ーー最近では無人ビジネスの領域が広がっていますが、例えば魚系以外の生き物などを無人で販売するような展開はお考えですか?
代表: 爬虫類の無人販売などは完全にNGとなっておりますので、そういった分野への展開は考えていません。私たちが扱っている魚系の販売については、特別な資格は必要ありませんが、生き物を扱う商売として、一応しっかりと資格を取得した上で安全に運営しています。今後も法令やルールを遵守し、安心していただける環境づくりを大切にしていきたいですね。
ーー最後に、無人店舗ビジネスを運営する上で、最も大切にされている哲学をお聞かせください。
代表: 私たちが一番大切にしているのは「常にお客様の目線に立った店作り(環境作り)をすること」です。
店舗に人がいないからといって、手を抜いていいわけではありません。むしろ無人だからこそ、見やすく清潔な売り場を保ち、お客様が安心して購入できる価格設定や分かりやすい案内を徹底する必要があります。SNSでの発信も、お客様が今どんな情報を求めているかを意識して行っています。
商売である以上、お客様あっての販売です。お客様のことを第一に考え、買いやすさや楽しさを追求し続ける姿勢があれば、無人店舗という形態でもしっかりとビジネスとして成長させていけると考えています。
ーーメダカへの愛情と、堅実なビジネスモデルの両立が素晴らしいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
店舗情報

横浜めだかファクトリー
住所: 神奈川県横浜市泉区和泉町5040-1
営業時間: 24時間営業