す慢性的な人手不足や人件費の高騰など、現代の小売業界はかつてないほどの厳しい経営環境に直面しています。
なかでも書店業界は全国的に店舗数の減少が続いており、店舗を維持しながら持続可能な経営を実現することが大きな課題となっています。そうした中、解決策の1つとして大きな注目を集めているのが「店舗の無人化」です。
本記事では、2023年9月に業界初となる完全無人新刊書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店(以下、ほんたす ためいけ)」をオープンさせ、メディア等でも話題を呼んだ「ほんたす」の事業担当者様に独自インタビューを実施させていただきました。
出版物の卸売業を本業とする日本出版販売株式会社が、なぜあえて完全無人書店という未知の領域に挑戦したのか。その出店の経緯から、立地選定の裏側、日々の緻密な店舗運営と商品管理の実態、気になる防犯・セキュリティシステムについて伺いました。
さらに、実際に無人化を運用して浮き彫りになったメリットと想定外の課題、AI活用の現実的なハードルや無人店舗ビジネスへの参入を検討する小売事業者へのアドバイスなど、現場の「リアル」を深掘りしてお届けします。
<プロフィール>
@HontasuOfficial千田 禎(ちだ ただし) 出版流通事業本部 開発チームチーフプランナー2019年 日本出版販売入社 書店営業を担当2023年よりほんたす事業に携わり、ほんたす ためいけの開店を支援、現在はほんたす関連事業を統括常田 泰宏(ときだ やすひろ) 出版流通事業本部 開発チームプランナー2022年 日本出版販売入社 エリアマーケティングの部署で本のある空間づくりを担当2025年よりほんたす事業に携わり、ほんたす ためいけのノウハウを活かして店舗の無人化省人化支援を担当
Q. まず初めに完全無人書店「ほんたす」を立ち上げられた背景と、事業としての目的についてお聞かせください。
A. 背景にあるのは出版業界全体が長年抱え続けている構造的な課題です。
書店数は1998年がピークだったのですが、それ以降は書籍・雑誌の売上が徐々に減少し全国の書店数も減少の一途を辿っています。
この書店の減少は、決して人口の少ない地方部だけの問題ではありません。実は集客力の高い「駅ナカ(駅構内)」の書店も急激に減ってしまっているのです。
駅ナカは通行量が多く、確実にお客様がいらっしゃる場所です。しかし、高額な家賃に対して、書籍・雑誌という商材の利益率では採算を合わせることが難しく、一定の売上は維持できていたとしても利益を確保するのが難しいという状態でした。
そこで私たちは「高額な家賃は削減できなくても、人件費であればシステム化によって大きく削減できるのではないか」と考えたのです。
日々新刊が届く書店において、コストを抑えながら店舗という場を維持する新たな書店モデルを開発するため、業界初となる完全無人書店への挑戦に至りました。

Q. 「ほんたす」という事業には、実店舗とソリューションの2つの側面があるとお聞きしました。
A. 「ほんたす」という名称には、2つの重要な意味合いを持たせています。
1つは、完全無人書店「ほんたす ためいけ」や「ほんたす しんこうべ」といった直営店舗の名称です。もう1つは、この直営店舗運営から蓄積されたノウハウを活かして、全国の書店の無人化や省力化を支援するソリューションとしての名称です。
当社の本業は出版物の卸売業ですので、最終的な目的は直営店舗をどんどん拡大していくことではなく、このソリューションを通じて、全国の書店が店舗を維持できるよう支援していくことです。既に7店舗で、無人化や無人運営による営業時間の延長を支援しています。(2026年7月時点)
Q.完全無人書店「ほんたす ためいけ」の立地を選んだ理由や、オープン当初の集客について教えてください。
A. 完全無人書店の実証実験の場として「ほんたす ためいけ」をオープンするにあたり、すでに書店が複数存在している立地ではなく、あえて生活導線上に書店がない場所を候補とし、複数の駅に絞り込みました。
最終的な出店の決め手となったのは、溜池山王メトロピアの運営管理をされている東京メトロプロパティーズ様に「この駅に書店が出店することの意義」に共感していただけたことです。
集客に関しては、溜池山王駅はビジネス街であり、店舗の前を1日に1万人から2万人が通行する非常に恵まれた立地のため、遠方へ向けた事前の大々的な広告告知に予算を割くよりも、目の前を通行する方々へチラシを配るなどの「店頭でのアピール」に力を入れて行いました。オープン前日に東京メトロ様と共同で報道公開を行い、テレビをはじめ多くのメディアにご取材いただいたことも、より多くの方に知っていただくきっかけになったと思います。
また、ニーズに合わせた工夫としては、オフィス街に位置する立地であるためビジネス書を豊富に取り揃えるなど、通勤客など日常使いをする方々をメインターゲットに設定しています。
Q. リピーターの獲得や、日々の品出しなどの店舗運営はどのように行われているのでしょうか?
A. リピーター獲得施策としては、LINE公式アカウントのメッセージ配信機能を活用し、客層にあわせたアプローチを実施しています。
LINEの会員データには誰に配信したか、そのお客様が過去何回来店したかという詳細な履歴が残るため、的確で効果的な情報配信が可能になっています。
また、日々の店舗運営については、基本は年中無休で営業しており、夕方の帰宅時間帯が最も混み合います。
品出し業務に関しては、当社の小売部門で30年以上の経験を持つベテランスタッフが店舗へ入り、商品の配送がある日は新刊や補充などの品出しを実施しています。
Q. 無人店舗で最も気になるのが防犯対策やマナー問題ですが、どのようなシステムを構築されていますか?
A. 開業前は盗難やトラブルに対する不安がありましたが、実際の運用を開始してからは想定していたほどの深刻なトラブルは起きていません。
システムの根幹となる入退店管理には、株式会社リモートロックジャパンが提供する「RemoteLOCK(リモートロック)」を導入しました。
入店時はLINEで会員登録を行い、発行されたQRコードの会員証をかざすことで扉が開く仕組みになっています。
店舗構造も窓を大きく設計して外からの視認性を高め、店内に死角がないよう防犯カメラを複数設置しています。
さらに、8時から23時まではサポートセンターに連絡が繋がる仕組みを整えています。
警備会社とも連携しており、お客様が店内で完全に孤立して連絡が取れない時間帯は存在しないよう安全面に配慮しています。
Q. 実際に完全無人化を運用してみて、見えてきたメリットと想定外だった課題を教えてください。
A. 「ほんたす ためいけ」以外のソリューションで支援した無人化店舗も踏まえての回答になりますが、最大のメリットは、人件費を追加することなく営業時間を大幅に延長できる点です。
これにより従来の有人書店が人員確保や採算面で営業が難しかった夜間帯に、20代〜30代のワーカー層の来店を取り込むことに成功しました。
また、店員の目を気にせずにゆっくり買い物ができ、書店特有の静かな空気感も相まって、お客様の滞在時間は延びる傾向にあります。
一方で、無人ゆえの想定外の課題も浮き彫りになりました。
顕著だったのが、人気コミックの特典配布など「話題性が高く人が集まる事象」への対応です。
以前、特定日からの特典配布が告知されていた際、我々は品出しのスタッフが来る朝9時からの配布を想定していましたが、店舗自体は7時から開いているため、開店と同時に来店されたお客様より「なぜ特典配布がないのか」とお問い合わせをいただいたことがありました。
イレギュラーな事態に即座に対応できないのは無人店舗の明確な弱点であり、トラブルを防ぐためには事前の的確なアナウンスや、無人時間帯における販売制限の切り分けを徹底する必要があります。
Q. AIによる接客など、最新テクノロジーの導入についてはどのようにお考えですか?
A. 遠隔サポートやAIによる最適な案内の導入は社内で検討したことはあります。
しかし、カメラからAI接客まで完全なシステムを構築しようとすると莫大な費用がかかり、投資回収が困難になってしまうため、実際に着手はしていない状況です。
また、業種によるAI活用の費用対効果の違いも考慮しなければなりません。
例えばサロンなどのサービス業であれば、AIによる高度な接客やスケジュールの提案が他店との明確な差別化要因となり、顧客満足度に直結しやすいと思います。
しかし、書店の場合は「販売している書籍の価格が全国どこでも同じ」で他店との差別化がしづらい業界特有の構造もあり、費用対効果を含め慎重に検討を続けています。
Q. 最後に、今後の事業展開と、これから無人店舗ビジネスへの参入を検討している方へアドバイスをお願いします。
A. 現在「ほんたす」として最も注力しているのは、直営店舗の拡大ではなく、卸売先である既存書店様の無人化・省力化の支援です。
すでに30店舗ほどの書店様から具体的な導入のご相談を いただいています。さらに、支援した書店が文具雑貨や食品、アパレルなど多様な商材を扱っている点に着目し、書店のみならず「人が足りない」「営業時間を延ばしたい」と悩む他の小売業態へのソリューション提案も進めていきたいと考えています。
人口減少による働き手不足と人件費高騰を背景に、無人化の需要は確実に増加します。
しかし無人化を「単に人を減らすための手段」とするのではなく、スタッフが本来注力すべき接客や魅力的な商品展開に時間を使うための「ゆとりを生み出す手段」と位置づけることが大切だと考えています。
これから参入される事業者の方へは、「フルパッケージでの完全無人化にこだわらないこと」をお勧めしたいです。
高度な警備システムやAI接客など、すべてをDX化しようとすると初期投資が膨れ上がり、回収が難しくなる可能性もあります。
顧客の課題とニーズを的確に見極め、「必要な部分だけを無人化・システム化する」という柔軟な組み合わせを見つけることが、持続可能な店舗経営を実現するための最大の鍵になると考えています。
【店舗情報】

ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店
所在地: 東京都千代田区永田町2-11-1 東京メトロ溜池山王駅構内(8番出入口付近、山王パークタワー方面)
営業時間: 平日 7:00~22:30 / 土日祝 10:00~20:00
公式HP: https://hontasu.com/
店舗省力化ソリューション「ほんたす」特設サイト: https://hontasu-rs.com/
