無人店舗研究所 UNMANNED RETAIL LAB

無人マッサージ店は成立するのか?駅前・築50年の空き家ビルを大改修、地域と対話する空間づくりの裏側を深掘り

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東京都・板橋駅のすぐ近く。古いビルを改修し、地域に新たな賑わいを生み出している場所があります。

もともとは手狭になった事務所の移転先として見つけた空き家物件でしたが、大規模リノベーションを経て1階に無人マッサージ店・ギャラリー・ポップアップスペース、上階を一般社団法人事務所とレンタルスペースとして展開する複合ビルへと生まれ変わりました。

今回はこのユニークな形態の店舗がいかにして生まれ、地域の方々にどのように受け入れられているのか。また、無人店舗でありながら「地域との対話」を最も大切にするその経営哲学について、経営者の檜垣様ご夫婦にお話を伺いました。

【プロフィール】

檜垣 圭祐 (ひがき けいすけ)

一般社団法人よろずパートナーズ代表
行政書士

東京大学経済学部卒業後、メガバンクに約20年間勤務後、行政書士登録。
相続・終活コンサルタントとして活動。
対面での相談対応件数は2,500件を超える。
セミナーやイベントを通じた情報発信にも注力。
2026年 Itabashi Station Terrace
    SELF RECOVERY 開業

手狭になった事務所探しから始まった、駅前「空き家ビル」との運命的な出会い

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、現在板橋駅前で展開されているこちらのビル(事務所兼・無人店舗など)を始められたきっかけについて教えてください。

檜垣様(旦那様): よろしくお願いいたします。私はもともと行政書士の資格を持っており、相続や終活のコンサルタントとして活動しています。お一人様向けのサポートサービスや、百貨店のお客様に向けた終活イベントなども手掛けております。

以前は自宅兼事務所として別の場所で活動していたのですが、徐々に手狭になってきて、近隣で新しい物件を借りることを検討し始めました。しかし、毎月家賃を払うのであれば、いっそのこと自分で物件を所有して、事務所以外のスペースは活用方法を考えて収益化するという形が良いのではないかという考えに至ったのです。

ーーそこで見つけたのが、現在の板橋駅前の物件だったのですね。

檜垣様(旦那様): はい。物件を探し続けていた去年の夏頃、奇跡的にこの板橋駅前の物件に出会いました。ここは元々、駅前の時計店として営業されていたビルで、2階と3階をご自宅として使われていたそうです。ご主人が亡くなられた後、しばらく手付かずの「空き家」状態になっていました。

建物は、空き家になるとどうしても荒れてしまいます。私が見つけた時も時間が経過してかなり傷んだ状態でした。しかし「ここをきれいに修復して使えば、絶対に良い場所になる」と直感し、購入と改装を決意したのです。

ーーご自宅のある板橋エリアにこだわって探されていたのでしょうか?

檜垣様(旦那様): そうですね。私自身が板橋に住んでいるため、自宅からも駅からも近いという利便性は絶対に外せませんでした。まさかこんなに条件にぴったりな駅前の物件が見つかるとは思っていなかったので、本当にラッキーだったと思います。板橋は、実は交通の要衝で、埼京線ですぐ池袋・新宿・渋谷に、三田線で水道橋・大手町・日比谷方面も1本で、さらに東武線で埼玉方面へのアクセスもよく、私の仕事の拠点とするにはこれ以上ない最高の立地でした。

無人マッサージ店とギャラリー。「地域に開かれた」多角的なスペース活用

ーーこのビルを改装するにあたり、どのようにスペースを活用していこうと考えられたのでしょうか。

檜垣様(旦那様): まずはもちろん、自分の一般社団法人事務所で必要なスペースをしっかりと確保することが第一でした。

その上で、残りのスペースをどう活用するか夫婦で様々なアイデアを出し合いました。駅前という立地や事務所への導線を考慮し、現在の形に落ち着きました。

具体的には1階の入り口から事務所へ上がる通路を確保した上で、「無人のマッサージ店(リラクゼーションスペース)」を設け、通路の横にギャラリーを、商店街に面した出窓にポップアップスペースを設けました。

また、2Fは、もともとの和室の雰囲気を活かして施術や撮影、展示などにお使いいただける「サロン・ノスタルジィ」、3Fは将来、数学講座などをやることを想定して作った大きなホワイトボードのある教室で、芸術と智の「サロン・インフィニティ」として貸し出しています。今私たちがインタビューを受けているこの1Fの「プレミアム・ラウンジ」は、本業のミーティングルームとして活用する一方、飲食営業許可も取得済みでワンデーカフェバーなどにもご利用いただけます。

ーー1階に「無人マッサージ店」という形態を選ばれたのはなぜでしょうか。

檜垣様(奥様): この街のこの場所にどんなサービスがあったら街の方々に喜ばれるか?街を観察し対話しながら考えました。私自身以前ソーシャルワーカーとして働いていた頃、疲れると身体が痛くなってしまって。「疲れた時に、安い値段で気軽にマッサージができる場所があればいいのにな」と思っていたんです。 事務所への通路の横にマッサージチェアを配置すれば実現できるのではないかと考えました。そして空間自体に癒されて欲しくて、壁一面の洋書本棚、ゴールドの鏡、プラネタリウム、イルミネーションと、道行く人に「素敵だから入ってみたい」と思って頂けるような空間を目指しました。毎日の疲れを自分のペースでいつでもリセットできる場所になりますように、お店の名前は「セルフ・リカバリー」と名付けました。

ーー無人店舗ということで、管理やコスト面でのメリットはどのように感じていらっしゃいますか?

檜垣様(奥様): まず人件費というコストの問題だけでなく、そもそも人材の確保・育成が非常に難しい時代に突入し、今後ますますその傾向が強まると考えています。ですので、人がいなくても営業が成り立つ無人店舗は持続可能性の高いビジネスだと考えています。人材の配置が必要ないからこそ24時間の営業が可能であり、「せっかく行ったのにお店が閉まっていた」ということもなく、早朝から深夜までお客様がご自身のペースでいつでもサービスを受けていただくことができます。

 オリジナルの店舗をゼロから考えて出店するのは大変でしたが、フランチャイズではないのでコストもおさえられ、無人店舗をベースに創意工夫できるのは面白いところです。

ーー最近では、スペースを活用して写真展なども開催されていると伺いました。

檜垣様(奥様): はい。沢山の方々が通る駅前の立地なので、ただ無機質な無人店舗ではなく、地域の賑わいの創出や活動の拠点としての役割も求められていると感じています。実際多くのお客様から上階を見せてほしい、レンタルスペースを何かに使ってみたいと完成前から沢山のお問合せをいただいていました。

 そこで、マッサージチェアの横にギャラリーを作り、商店街に面した出窓にはポップアップブースを作り、1日1000円で貸しだすキャンペーンを始めました。1000円なら失敗を恐れずに、いつかお店をやってみたい方、商品の反応を試してみたい方が誰でも挑戦できます。入れ替わりでいろんなお店が出店すれば地域の方々にも喜ばれます。

最近も主人の繋がりで企業様のPRのための写真展を開催しました。遺品整理や生前整理に関連する面白い写真展で、最終日にカメラマンの撮影会を開催したのですが、写真展を見た方からお申込みが殺到してすぐ満席になってしまいました。他にも「開運なんでも鑑定団」に出演されたフランス人鑑定士のエルベ・ディボトさんの無料鑑定会や、ミニ縁日、小学生起業家の1日ショップ挑戦!など、この夏は様々なイベントを開催することができました。

 

大正ロマン風への大改装。収益性を高める「居心地の良さ」の追求

ーー先ほど改装前の写真(ビフォーアフター)を拝見しましたが、外壁から内装まで本当に見違えるように綺麗でおしゃれになっていますね。

檜垣様(奥様): ありがとうございます。とても古いビルだったので、傷んでいる場所は修繕しなければならず、かなり大掛かりなリフォームが必要でした。

しかし、ただ古いものを壊して新しくするのではなく、もともとの建物の良さを活かした空間をを作りたいという思いがありました。例えば和室の障子や長押、階段の手すりなどは、当時のものをそのまま活かし、それに合うように壁紙や床材を組み合わせました。古いものと新しいものが混ざり合うことで独特の空間を創り出すことができました。

ーー店舗の居心地の良さに非常にこだわっていらっしゃる印象を受けます。

檜垣様(奥様): そうですね。もともとレトロ建築やDIYが大好きなんです。建物は人間の行動や感情に大きな影響を与えますので、単に見栄えがオシャレなだけでなく、実用性があり、あっと驚く工夫がちりばめられた面白くて居心地の良い空間を作りたいんです。そういう場所はわくわくしますから沢山の人が集まってきます。

古い建築には現代ではもう使われない良質の材料・技術・アイデアが詰め込まれていることがあります。時計店のご主人は、他の店ではもう直せないと言われた時計も直してしまう高い技術を持った職人さんだったそうで、建物にも随所にDIYの痕跡が残されており、こういう建物の素敵な歴史や魅力をどうしたら活かせるか、何度も何度も建物に通って考えました。楽しくて居心地が良い場所はにぎわいますから、それがひいては主人のビジネスの成功にも繋がるといいなと考えています。

無人店舗の課題をクリアする「地域のあたたかさ」と「毎日の見守り」

ーー無人店舗を運営する上で、「治安の悪化」や「清掃の管理」を心配されるオーナー様が多いですが、その点はいかがでしょうか。

檜垣様(奥様): 私たちも最初は、「治安が悪くならないか」「たむろ場になってしまわないか」という点が一番の心配事でした。 しかし実際に始めてみると、本当に地域の方々や板橋という土地柄のおかげで、皆さんがとても綺麗に使ってくださっています。

「上質な空間をお手頃価格で続けるために、ご協力をお願いします」と注意事項が書いてあるのですが、これをじっくりと読んでくださる方が多いのです。次のお客様のためにマッサージチェアをきれいにふいて下さる方もおり、常連のお客様がみんなでこの空間を守って下さっています。お財布などの忘れ物も届けてくださったり、地域全体にとても穏やかで温かい雰囲気があります。

ーー地域の方々のモラルに支えられているのですね。清掃やお金の回収などの日々の管理はどのようにされていますか?

檜垣様(奥様): 無人店舗といえども、環境としての清潔さを保つことは、衛生面、防犯面から非常に重要ですので、メンテナンスは毎日しっかりと行っています。

ただ、私たちの場合は上階に主人の本業の事務所があり、自宅も近いので何かあればすぐ駆けつけることができます。もしこれが完全に遠隔地の無人店舗ならば、何かトラブルがあった時の即時対応は難しかったと思います。

ーー何か防犯面でのトラブルなどはこれまでにありましたか?

檜垣様(奥様): ガラス張りの路面店で、交番も徒歩1分なので、大きなトラブルは今のところありません。トラブルが起こらないように「環境を整えて、予防していくこと」が大切だと考えています。マッサージチェアの使い方がわからなくて困っている方には声かけをすることがあります。 事務所を兼ねながら1階に無人店舗があるというこの形は、見守りという観点でも良かったと思っています。

リピーターの方から「この場所にお店を作ってくれて本当にありがとう。すっかりファンになっちゃって、ここに来るのが毎日の楽しみなんですよ」と言われた時は、とても嬉しくて「ああ、お店を作って良かった」と思いました。

物件・地域との「対話」から生まれる店づくりの哲学

ーー最後に今後の無人店舗事業の可能性や、これから無人ビジネスに参入したい方へのアドバイスをお願いできますでしょうか。

檜垣様(旦那様): 無人ビジネスはこれから間違いなく伸びていく分野だと思いますが、大切にすべきなのは「地域や物件との対話」だと私は考えています。

 「この建物だから、こういう形にした方がいいんじゃないか」「この地域(板橋)だから、この価格でこういうサービスがフィットするんじゃないか」と、常に建物や地域と対話しながら、最終的に今の形に辿り着きました。

ーー「物件との対話」「地域との対話」ですか。非常に深いお言葉です。

檜垣様(奥様): 無人店舗といってもバックヤードでは人間が知恵を絞って経営しています。お客様との対話、物件との対話、地域との対話の中で、今どんなサービスが必要とされているのか、考え続けることが大事なのではないでしょうか。有人でも無人でもビジネスはとても難しくそして面白いです。日々刻々と変わる環境の中、これだ!という最適解に辿り着くのは難しいですが、「こういうサービスが欲しかった!」とお客様に喜んでいただけて、それが地域のにぎわいにもつながり、更に売上にもつながるという三方良しになればこんなに嬉しいことはありません。少しでも前進できるように日々試行錯誤しながら努力しています。

ーーお二人がこれまで培ってこられたご経験や知見、そして地域への温かい想いが見事に融合した、まさに「お二人の人生そのもの」が表れているような素晴らしい店舗ですね。本日は大変貴重で学びの多いお話をありがとうございました。

店舗・施設情報 

SELF RECOVERY(セルフリカバリー)

店舗名:Itabashi Station Terrace 1F 「SELF RECOVERY」

住所:東京都北区滝野川7-9-8(板橋
駅東口 徒歩1分 / マクドナルド向か
い)

営業時間:24時間営業

定休日:年中無休

決済方法:現金(100円両替機有)、各種QR決済対応

公式サイト:

https://itabashi-station-terrace-self-recovery.my.canva.site

Instagram:https://www.instagram.com/itabashi_station_terrace

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