近年、人手不足を背景にさまざまな業界で「無人店舗」の導入が進んでいる。酒類を提供するビジネスにおいても、その可能性は広がりつつある。
今回は、三重県・伊勢志摩の鵜方駅に完全無人のタップルーム「Craft Beer Stand SHIMA」を新たにオープンした近鉄リテーリングの藤原慶史氏に、無人でのクラフトビール提供の裏側や、ビジネスとしての成立条件についてお話を伺った。
【プロフィール】

藤原 慶史(ふじわら よしふみ)
近鉄リテーリング 課長(Director) 2019年のクラフトビール事業参入、およびプロジェクト始動時点から当事業に参画。大和醸造(奈良)や志摩醸造(三重)の立ち上げからレストラン・店舗運営まで、クラフトビール事業全般を牽引する。
──本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、現在運営されている無人店舗事業についてお聞かせいただけますでしょうか。
藤原氏: 私が所属している近鉄リテーリングは、主に関西や東海エリアの駅ナカ、レストラン、サービスエリアなどの事業を手がけている会社です。その中で2019年にプロジェクトが発足し、新たにクラフトビール事業へ参入することになりました。
2020年から本格的にビールを醸造しており、コロナ禍の影響を受けながらも事業は順調に進んでいます。これまでは奈良の近鉄奈良駅などを拠点で情報発信をしておりましたが、2025年から新たに伊勢志摩の志摩(鵜方駅)に醸造所を開業しました。その施設内にタップルームを設け、そこで無人店舗を展開しています。
──無人店舗でビールを提供するシステムは、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
藤原氏: コロナ禍において、非接触型のビールサーバーを開発したのが始まりです。
当時、奈良の近鉄奈良駅の駅ナカに「Yamato Craft Beer Switch」という非接触型サーバーを導入し、無人提供の先駆けとして展開しました。お客様自身で注文し、カップをセットして注ぐシステムです。
この仕組みをベースに、現在近鉄奈良駅の店舗などでも同じサーバーを使用しており、完全無人のサーバーシステムとしては今回の志摩のタップルームで3店舗目の展開となります。志摩でも同様に、ご購入いただいたQRコードを発券し、そこからビールを注いでいただく完全無人のスタイルで営業しています。
──藤原様ご自身は、どのような経緯でこのビール事業に関わることになったのですか? 元々ビールがお好きだったのでしょうか。
藤原氏: 私が関わるようになったのは、事業が発足した2019年です。社内で新規事業への挑戦として公募制が採られ、その第一期生として選ばれました。もちろんクラフトビールは好きでしたが、それ以上に「ゼロからイチを作り上げる新規事業に挑戦したい」という思いが強かったのが大きな理由です。現在は醸造事業からレストラン運営まで、全てを担当しています。
──ビールサーバーの無人運営にあたり、在庫管理やシステムの構築で苦労された点はありますか?
藤原氏: システム面やセキュリティ面では、今でもデバイスの通信が停止するなどのトラブルが発生することがあり、最初は特に苦労しました。
在庫管理については、外部の既存システムを持ってくるのではなく自社で構築しています。ビール業界ならではの特殊な事情として、樽(ケグ)からの排出量を計量・管理する必要があるため、システム会社と協力しながら独自のシステムを導入しています。
──無人店舗でのトラブル対応などはどのようにされているのでしょうか。
藤原氏: 完全無人とはいえ、券売機のトラブル対応や毎朝の開店準備、毎晩の閉店業務などがあるため、何かあれば近隣にいるスタッフがすぐに駆けつけられる体制はとっていますね。
──無人のタップルームは、醸造所を併設せず単独の店舗として展開することも可能なのでしょうか?
藤原氏: 単独での展開は成り立たないと思います。やはり醸造所が併設されているからこそのビジネスモデルです。無人という形での酒類販売は免許の許可を下ろすハードルもありますし、ビジネスの観点からも、現在のような施設併設型がベストな形だと感じています。
ちなみに志摩の店舗では、定番の缶ビール3種類は上の階のファミリーマート等で販売しており、タップルームのサーバーでは限定ビールをお客様に提供するという棲み分けを行っています。
──お客様の客層や、来店数はどのくらい推移していますか?
藤原氏: 志摩スペイン村などの周辺施設で遊んだ後、最寄り駅をご利用になるお客様がそのまま立ち寄ってくださるケースが多いです。平日は20人弱、土日になると40人〜50人ほどの方にご利用いただいています。夏休みなどの繁忙期にはさらに多くのお客様に足を運んでいただいております。リピーターの方もいらっしゃり、無人で気軽に試飲できるシステムは大変好評です。
──オープン時から現金は扱わず、キャッシュレスに特化されているのでしょうか。
藤原氏: はい、ほぼキャッシュレス(無人)で運営しています。オープン時から現金決済を入れてしまうと、釣り銭の管理など、どうしても人の手が必要な業務が発生してしまいます。それを防ぐためにもキャッシュレス化は必須でした。
──最後に、無人店舗ビジネスの今後の展開や、これから同事業を始めたいと考えている方へのアドバイスをお願いします。
藤原氏: まず今後の展開としては、私たちが開発して特許を取得したこのシステム自体を、他社の施設やスペースへ営業・展開していく可能性も探っています。スタッフや受付の対応負担を減らしたいというニーズは確実にありますからね。
アドバイスとしては、「お客様の善意(性善説)」を信じてやってみても案外大丈夫だということです。これから無人店舗を始める方は、どうしても「商品が盗まれるのではないか」と心配されると思いますし、私たちも最初はそうでした。しかし、防犯カメラなどの人の目(抑止力)がしっかりあれば、海外とは違い、日本ではこの性善説に基づくモデルが十分に成り立ちます。
少子高齢化が進み、人手不足はどの業界でも常に大きな課題です。
大人数で効率よく店舗を運営することが難しくなっている今だからこそ、こういった無人・省人化のビジネスモデルには、今後さらに需要があると感じています。
【店舗情報】
Craft Beer Stand SHIMA(志摩醸造 SHIMA BREWERY)
- 住所: 〒517-0501 三重県志摩市阿児町鵜方1670-2 近鉄鵜方駅1階(改札外)
- アクセス: 近鉄志摩線「鵜方駅」直結
- 営業時間: 不定期(10:00~16:00など※最新の営業時間は公式Instagramをご確認ください)
- 定休日: 不定休
- TEL: 080-7402-3759
- 決済方法: キャッシュレス決済のみ(現金不可)
- 公式HP: https://brewery-kintetsu.com/shima-brewery/
- 公式Instagram: @shimabrewery