無人店舗の新業態を探すとき、韓国は無視できない市場です。日本より早く無人化が広がり、そこで残った業態と消えた業態がはっきりしているためです。
その韓国で、いま店舗数を伸ばしているのがペット用品の無人店です。24時間営業の無人ペット用品店「アムドオプケ(아무도없개)」は、公式サイトの表示で215号店を突破しました。店名は「誰もいない」を意味する韓国語の語尾を、犬を指す語に置き換えた綴りになっています。ローマ字ではAmudo Eopgaeと表記されます。
無人ペット用品店という業態は、日本ではまだ一般的ではありません。ただ、韓国で成立している理由を分解していくと、そのほとんどが需要構造と商品特性の問題であることが分かります。つまり、条件が揃えば他の市場でも再現しうる話です。
ここでは、この業態が韓国で成立している背景を5つに分けて整理したうえで、フランチャイズ本部が持っているシステムの中身まで踏み込みます。海外の無人店舗の全体像は海外の無人店舗事例/世界ではどんな無人店舗が生まれているのかで扱っていますので、本記事は1業態の深掘りとしてお読みください。
韓国で急成長する24時間無人ペット用品店「アムドオプケ(아무도없개)」とは

アムドオプケは、店員を置かずに24時間営業するペット用品店です。運営会社はラハムで、公式サイトでは正式な業態名を「24時 伴侶動物コンビニ」と表現しています。
規模の推移が、この業態の伸びを端的に示しています。韓国の経済紙エネルギー経済新聞は2023年7月19日の記事で、アムドオプケが90号店を突破し100号店を目前にしていると報じました(エネルギー経済新聞 2023年7月19日)。それが公式サイトの現在の表示では「215号店突破(2026年7月オープン店舗基準)」となっています。約3年で2倍を超える増え方です(アムドオプケ 公式サイト)。
品揃えの厚みも、日本で想像される「無人販売所」とは違います。公式サイトは、扱う商品群を1,800品目とし、主力商品を冷凍のおやつだと明示しています。会員数は累計32万人を超えたとされています(いずれも2026年7月時点の表示による)。
商品の中心が冷凍のおやつであることは、この業態を理解するうえで外せません。常温の袋菓子だけを並べる棚とは違い、冷凍ケースを持つ店舗は設備投資も電気代も増えます。それでも冷凍を主力に据えているのは、そこに反復購買と単価があるからだと読めます。
無人店舗を「安く済ませた売り場」ではなく「その商品を買うならここ」と思わせる品揃えで作る発想は、韓国発の他の無人業態にも共通します。撮影マシンを軸にしたPhotomaticはなぜ成立するのか:撮影マシン中心の「シンプル構造」と立地戦略も同じ構造を持っています。
なぜ韓国で無人ペットグッズ店が爆発的に成立するのか?5つの背景

この業態が成立する条件は、大きく5つに分けられます。順に見ていきます。
| 背景 | 内容 | 無人化との関係 |
|---|---|---|
| 市場の厚さ | 約3世帯に1世帯がペットと暮らす | 徒歩圏に商圏が成立する |
| 飼育構成 | 犬を飼う世帯が8割を占める | 消耗品の反復需要が読みやすい |
| 商品特性 | おやつ・フード中心の補充型購買 | 接客なしで完結する |
| 都市構造 | 高密度な市街地と小型店の集積 | 小面積・低賃料で出店できる |
| 生活時間 | 夜間の来店需要 | 24時間営業が意味を持つ |
約3世帯に1世帯という高いペット飼育率とコンパクトな都市構造(小売店密度)

まず母数です。韓国の農林畜産食品部は2026年2月12日、「2025年伴侶動物養育現況調査」と「2025年動物福祉に対する国民意識調査」の結果を発表しました。同日付の報道資料は見出しを「隣家3軒のうち1軒、伴侶動物とともに暮らす」とし、副題に「伴侶動物養育比率29.2%、月平均養育費約12万1千ウォン」と記しています(農林畜産食品部 報道資料 2026年2月12日/報道資料 本文)。本記事で挙げる韓国側の数値は、いずれもこの報道資料の本文によるものです。
この29.2%という数字は、調査の性格を押さえて読む必要があります。発表資料によれば、養育現況調査は今回初めて国家承認統計として実施されたもので、人口住宅総調査の標本をもとに3,000世帯を対象に、調査員が世帯を訪問する面接調査の方式で行われました。オンライン調査とは設計が異なります。同資料は、従来の「4世帯に1世帯」から「3世帯に1世帯」へ拡大したと表現しています。厳密には29.2%なので3.4世帯に1世帯ほどの水準ですが、4世帯に1世帯だった時期から確実に押し上がっています。
なお、日本にも一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査がありますが、こちらは犬と猫を対象とした協会の調査で、韓国の国家承認統計とは対象範囲も調査方法も異なります。両者の比率を並べて何ポイント差だと論じるのは適切ではありません。ここで確認できるのは、韓国ではおよそ3世帯に1世帯がペットと暮らしているという事実そのものです。
市場規模の面でも成長は続いています。ジェトロのレポートは、2015年に1兆8,994億ウォン(約1,936億円)だったペット関連産業の市場規模が、2027年には6兆55億ウォンと6兆ウォンを超える市場に成長すると予測されていると紹介しています(ペット市場・産業の成長、日本企業のビジネスチャンスはどこに?(韓国))。
都市構造も効いています。韓国の市街地は集合住宅を中心に人口密度が高く、生活圏に小型の店舗が密に並びます。無人店舗にとって、これは決定的な条件です。小面積で出店でき、徒歩圏の反復来店だけで採算に乗る商圏が成立するためです。広域から車で集客する前提の立地では、同じ坪数では成り立ちません。
犬を飼う世帯が8割を占める飼育構成
次に、飼っている動物の内訳です。同じ発表資料によると、伴侶動物を飼育する世帯のうち犬を飼う比率が80.5%と最も高く、猫が14.4%と続いています。犬中心の飼育構造が維持されている、と整理されています。
これは商品構成に直結します。犬は散歩の習慣があるぶん飼い主が外出しやすく、おやつやフードの消費量も猫より多くなりがちです。実際、同資料では1匹あたりの月平均養育費用が約12万1千ウォン(うち病院費3万7千ウォン)で、犬の養育費用13万5千ウォンが猫の9万2千ウォンより高いと報告されています。
さらに、最近1年以内に動物病院を利用した経験が95.1%と非常に高い水準にあることも示されています。ペットへの支出が特別な出費ではなく、日常の家計に組み込まれていることの裏づけです。
無人店舗にとって重要なのは、単価の高さより支出の定期性です。毎月決まって出ていく費用があるということは、店に来る理由が毎月あるということです。
おやつやフードなどの「補充型購買」と無人化しやすい商品特性
3つ目が、商品そのものの性質です。
ペット用品の中心はおやつとフードで、これらは典型的な補充型の購買にあたります。買うものが最初から決まっており、店頭で相談する必要がありません。銘柄を選び直すのは飼い始めの時期と、体調や年齢の変化があったときくらいです。
この性質は、無人販売と極めて相性が良いものです。接客が必要な購買では、店員がいないこと自体が販売機会の損失になります。しかし補充型の購買では、店員がいないことは不便ですらありません。むしろ、勧められずに買えることを利点と感じる客もいます。
商品の形状も無人向きです。袋詰めや缶詰が中心で、量り売りや調理を伴いません。単価も手に取りやすい水準で、万引きされたときの損失が経営を揺るがす規模になりにくい。冷蔵・冷凍品を扱う場合でも、扉付きのケースに収めれば温度管理は機械が担います。
無人店舗が成立する業種の条件を横断的に整理したものとしては、【完全保存版】無人ビジネスの種類を徹底比較!カテゴリ別に49業種を紹介もあわせてご覧ください。
1匹あたり月12万ウォン台という継続支出の存在
4つ目は、いま触れた支出の定期性を独立した条件として捉える見方です。
無人店舗の弱点は、客単価を上げにくいことにあります。追加提案をする店員がいないため、客は買うと決めていたものだけを買って帰ります。したがって、無人店舗の売上は「単価 × 客数」ではなく「単価 × 来店頻度 × 客数」で考える必要があります。
月平均12万1千ウォンという養育費用は、フードとおやつを軸に毎月発生します。年に数回しか発生しない支出であれば、無人の小型店では商圏人口が足りません。毎月、場合によっては週単位で発生するからこそ、徒歩圏の小商圏でも回ります。
夜型生活スタイルに合わせた24時間営業の親和性
5つ目が営業時間です。
従来のペットショップは営業時間に制約があり、閉店後の需要を取りこぼしていました。ここは無人化がそのまま効く領域です。
犬を飼う世帯が8割という構成は、この点でも効いてきます。犬の飼育には散歩という外出の習慣がついてくるからです。外出の途中に立ち寄れる店が開いていれば、そこで買います。翌日に別の店へ行く動機は生まれません。
そして24時間営業を人件費なしで実現できるのが、無人化の最大の効用です。有人店舗が夜に閉めるのは需要がないからではなく、夜間に人を配置する採算が合わないからです。無人化はその制約だけを外します。5つの背景のうち、最後のこれだけは需要側ではなく供給側の条件だという点は押さえておくべきです。
成功する無人FC本部に学ぶ「AI発注支援・在庫管理」の重要性

ここまでは需要の話でした。しかし、店舗数を3年で2倍以上に増やせるかどうかは、本部が加盟店に何を提供できるかで決まります。
無人店舗のフランチャイズで本部の価値が出るのは、接客の教育ではありません。店員がいないのですから、教えるべき接客がありません。代わりに問われるのが、発注と在庫という、店舗運営で最も判断を要する部分をどこまで肩代わりできるかです。
アムドオプケの公式サイトは、この点をシステムとして案内しています。発注支援については、期間別の販売量と3日後から60日後までの販売データを自動で分析・整理し、商品別の需要を予測して最適な発注商品を素早く正確に選別する、と説明されています。在庫管理については、商品をスキャンするだけで在庫の数量と状態を即座に確認でき、簡単かつ正確に在庫を管理できるとされています(アムドオプケ 公式サイト)。
この2つが本部側にある意味は、実務に落とすとはっきりします。
無人店舗のオーナーは、多くの場合その店に常駐していません。公式サイトも、退勤後に1日1〜2時間を充てる副業層や、既存店舗に併設して運営する層を想定顧客として挙げており、1日の平均管理時間を30分としています。その状態で、1,800品目について何をいくつ発注するかを人が判断するのは現実的ではありません。判断をオーナーに委ねれば、欠品か過剰在庫のどちらかが必ず起きます。
欠品は無人店舗では特に痛手です。店員がいれば「今日は切らしていて」と代替品を勧められますが、無人店舗では棚が空いているという事実だけが客に伝わります。客はそのまま帰り、次から来なくなるかもしれません。
一方の過剰在庫は、冷蔵・冷凍品を扱う業態では廃棄に直結します。おやつの品目数が多いほど、この管理は難しくなります。需要予測を本部のシステムが担うということは、加盟店が持つべき能力の水準を下げるということです。これは店舗数を増やすうえで決定的に効きます。
韓国では廃業率まで公開されている
もうひとつ、日本の事業者が参考にすべき仕組みがあります。韓国には公正取引委員会の加盟事業取引に関する情報公開書の制度があり、フランチャイズ本部の実績が同じ基準で開示されます。
アムドオプケの公式サイトは、この情報公開書をもとにした比較を掲載しています。2025年登録・2024年実績として、同社の年間平均売上8,083万ウォン、廃業率6.12%、新規開店53店、年間純増44店という数字を挙げ、同業4社の廃業率を18.2%、17.39%、24.74%、27.17%として並べています(アムドオプケ 公式サイト)。
ここで注目すべきは廃業率の桁の違いです。無人店舗の加盟店募集では開業のしやすさが強調されますが、事業者が本当に知りたいのは開けた店が続いているかどうかです。年間平均売上が最も高いのは同社ではなく比較対象のA社であり、それでも廃業率は3倍近い。売上の大小と事業の持続性は別の指標だということが、同じ基準の数字で見えます。
ただし、この比較は本部が自社サイトに掲載しているものです。同サイト自身も、ブランドごとに店舗面積・立地・運営形態が異なるため単純な収益性の比較資料ではないこと、加盟契約前に最新の情報公開書の原本を必ず確認することを注記しています。掲載されている想定売上や想定収益率も、本部が示す見込み値です。
日本にも同様の制度はあります。中小企業庁の説明によれば、中小小売商業振興法第11条の要件に該当する事業を行う者は、事業概要や契約の主な内容等についての情報を、加盟しようとする者に契約締結前に書面で交付し、説明する義務があります(特定連鎖化事業(フランチャイズ)について)。
制度がある以上、確認しないのは検討する側の損です。無人店舗のフランチャイズを検討するなら、提示された売上見込みより先に、開示書面を求めて既存加盟店がどれだけ残っているかを確かめるべきです。
そのうえで、日本で同種の業態を検討する場合に確認すべき点を挙げておきます。
第一に、発注支援が「提案」なのか「自動発注」なのかです。提案止まりであれば、結局はオーナーが毎回判断します。第二に、在庫データが本部と加盟店のどちらに帰属するのかです。販売データは業態の資産であり、契約時の整理が要ります。第三に、仕入れの流通経路です。本部が卸を兼ねるのか、外部の流通と組むのかで、加盟店の粗利率と品揃えの自由度が変わります。
なお、韓国の店舗数や費用に関する情報は、あくまで韓国での運営条件を前提にしたものです。日本で同じ業態を検討する場合、賃料水準、商圏人口、動物用医薬品や食品に関する国内の規制など、確認すべき前提が別にあります。海外で成立している事実は、日本で成立することの証明にはなりません。
まとめ
韓国の24時間無人ペット用品店が伸びている理由は、無人化技術そのものではありませんでした。およそ3世帯に1世帯がペットと暮らし、そのうち8割が犬を飼い、毎月1匹あたり12万ウォン台の支出が発生する。この需要構造の上に、接客を必要としない補充型の商品が乗り、徒歩圏で完結する高密度な都市構造がそれを支えています。
無人化が効いているのは、最後のひとつだけです。夜間の需要に対して、人件費をかけずに営業時間を伸ばせること。裏を返せば、需要構造が整っていない市場に無人店舗を置いても、開いている時間が長いだけの店にしかなりません。
本部の側から見ると、価値の源泉は接客教育ではなく、発注と在庫の判断を肩代わりするシステムに移ります。1,800品目を、常駐しないオーナーが1日30分で管理できる状態にすること。これができて初めて、店舗数を伸ばす展開が可能になります。
日本で類似の業態を検討するなら、まず自分が狙う商圏で「毎月発生する支出」と「徒歩で来られる世帯数」を数えるところから始めるのが確実です。無人化はその後に効いてくる要素であり、順番を逆にすると、設備は整っているのに客が来ない店ができあがります。