無人店舗研究所 UNMANNED RETAIL LAB

無人化の駅はなぜ増え続けるのか?背景・課題・支える無人システムの実像

駅の改札に人がいない光景は、もはや珍しいものではなくなりました。2020年3月時点で全国の駅のうち半数近くがすでに無人駅であり、その流れは赤字ローカル線にとどまらず、1日に3万人が乗り降りする都市近郊の駅にまで及び始めています。人件費構造の見直しと遠隔対応技術の実用化が重なり、駅の無人化は「やむを得ないコスト削減策」から「駅ごとに選び取る運営モデル」へと性格を変えつつあります。

本記事では、無人駅がここまで広がった背景を統計で押さえたうえで、サービス品質・セキュリティ・障害者対応という3つの課題を整理し、それを補うために鉄道各社が実際に導入している遠隔システムの中身を見ていきます。無人化を検討する事業者が、どこまでを機械と遠隔に任せ、どこに人を残すべきかを判断する材料にしてください。

無人駅とは何か、なぜいま増えているのか

無人駅とは何か、なぜいま増えているのか

無人駅とは、駅員が配置されず、自動券売機やICカード改札、インターホンなどの機器で通常業務を代替している駅を指します。終日無人の駅もあれば、早朝・夜間など一部時間帯のみ改札が閉まる「時間帯無人」の駅もあります。かつては赤字ローカル線の一部に限られた光景でしたが、いまや無人駅は日本の鉄道インフラの標準形になりつつあります。

その広がりを示す数字があります。2019年度末(2020年3月)時点で全国9,465駅のうち4,564駅が無人駅で、全体の48.2%を占めます(「現在の無人駅を巡る環境について」(駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会 第1回 資料1))。起点となる2001年度は総駅数9,514駅・無人駅4,120駅で比率は43.3%でしたから、18年間で約5ポイント上昇し、半数近くに達したことになります。ローカル線の廃止議論のたびに語られてきた無人化が、実はすでに全国の駅の半分近くで既成事実になっているという点は、経営判断の前提として押さえておく必要があります。

都道府県別の差も大きくなっています。無人駅の割合が最も高いのは高知県で93.5%、次いで徳島県が81.6%に達する一方、埼玉県は3.0%、東京都は9.9%にとどまります(同資料 都道府県別の無人駅の割合(2019年度))。地方の赤字路線ほど無人化が進み、利用者密度の高い都市部では有人駅が維持されやすい、という一見わかりやすい構図がここには表れています。

しかし経営判断として無人化を眺めたとき、この「地方だけの現象」という見立てはすでに実態とずれ始めています。

「乗降客3万人超」の駅すら無人化する時代へ

「乗降客3万人超」の駅すら無人化する時代へ

西武鉄道は2025年3月25日から、拝島線の東大和市駅・武蔵砂川駅・西武立川駅、国分寺線の鷹の台駅・恋ヶ窪駅の5駅を、駅係員がインターホンで案内する「遠隔対応駅」へと順次変更しました。これにより、駅係員による乗車券類の発売・精算・案内ほか窓口での対応は終了しています。窓口対応を専属的に担う係員は配置されないものの、異常時等には必要に応じて対象駅または近隣駅の係員が対応する運用です(西武鉄道「一部の駅における営業体制の変更について」(2025年2月21日))。介助が必要な場合は、乗車日の前日17時までに西武鉄道の「介助事前受付サービス」で事前に申し込んでおくと、スムーズな案内を受けられます(西武鉄道 お身体の不自由なお客さまに向けた「介助事前受付サービス」のご案内)。

この流れは2026年に入り、都心近郊のより利用者数の多い駅へと及んでいます。同社は2026年2月3日から新宿線の東伏見駅・西武柳沢駅・久米川駅、西武園線の西武園駅を、2月5日からは新宿線の入曽駅を遠隔対応駅化しました。1日平均乗降人員は東伏見駅が21,835人、西武柳沢駅が15,973人、久米川駅が30,875人、入曽駅が16,146人にのぼります(西武鉄道「1日3万人の乗降がある無人駅」出現 新宿線や西武園線の5駅を遠隔対応化)。1日3万人が乗り降りする駅ですら、常駐する駅係員を置かない経営判断が現実になっています。

この規模の駅が対象になった事実は、無人化がもはや「利用者の少ない路線のコスト対策」ではなく、「利用者数にかかわらず適用しうる標準的な駅運営モデル」へと位置づけが変わったことを示しています。背景には、鉄道事業者側の人件費構造の見直しに加え、深夜・早朝など利用の薄い時間帯に有人窓口を維持するコストと、遠隔対応システムの導入・運用コストを比較したときに後者が優位になってきた技術的な事情があります。

無人化が生む3つの課題

無人化が生む3つの課題

駅の無人化は運営コストを圧縮する一方で、利用者側には見えにくい負担を生みます。主な論点は次の3つに整理できます。

サービス品質の低下

駅員が常駐しないことで、運行遅延時の状況説明や振替輸送の案内、忘れ物対応、体調不良者への即応など、人が介在してこそ成立していた対応が難しくなります。インターホンやコールセンター経由の遠隔対応は定型的な問い合わせには機能しますが、現場でしか判断できない突発的なトラブルには限界があります。

セキュリティ上のリスク

駅員の目が届かない時間帯は、不正乗車や器物損壊、線路内への立ち入りといったリスクが相対的に高まりやすくなります。無人店舗業態でも同様の課題は共通しており、カメラによる監視と人による介入をどう組み合わせるかが論点になります(この設計思想は無人店舗の防犯対策とも重なります。詳細は無人店舗の防犯設計を参照してください)。

障害のある利用者への対応

視覚・聴覚に障害のある利用者や車椅子利用者にとって、駅員の直接介助は移動の安全性を支える重要な要素でした。無人化された駅では、多くの場合「事前に電話やアプリで介助を申し込む」運用に置き換わっており、突発的な外出や予定変更に対応しづらいという声が当事者団体から上がっています。国土交通省は2020年11月に障害当事者団体・鉄道事業者との三者意見交換会を設置し、この議論を経て2022年7月22日に「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドライン」を策定しました(報道発表資料:「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドライン」を策定しました!)。無人化を検討する事業者に対し、利用者団体との事前調整や代替手段の整備を求める内容で、行政側も「無人化ありき」ではなく手続きの整備に動いていることがわかります。

課題を補う無人システムの実像

課題を補う無人システムの実像

上記の課題に対し、鉄道各社は駅ごとの機器導入で対応してきました。ここでは実際に稼働している3つのシステムを見ていきます。

事業者 導入時期 特徴
JR東日本 2014年 駅遠隔操作システムで、券売機・改札機・精算機を遠隔監視・操作
西武鉄道 2025〜2026年 インターホンで遠隔応対し、窓口機能は定期乗車券発売駅に集約
京都市交通局 2017年 IC対応型多機能インターホン。筆談機能で聴覚に障害のある利用者にも対応

JR東日本「駅遠隔操作システム」

JR東日本は2014年2月2日、八王子支社管内の横浜線・片倉駅、八王子みなみ野駅、相原駅の3駅を皮切りに「駅遠隔操作システム」を導入しました。改札口係員が不在の時間帯に、自動券売機・自動改札機・自動精算機の稼働状況を遠隔監視・操作し、利用者からのインターホン問い合わせにはカメラで乗車券を確認しながら対応する仕組みで、有人通路のドア開閉も遠隔操作できます(JR東日本八王子支社、管内5駅に「駅遠隔操作システム」導入)。同年3月には武蔵野線の東所沢駅・新座駅にも展開され、早朝など利用の少ない時間帯を中心に運用されています。

西武鉄道の「遠隔対応駅」

前述の西武鉄道のケースでは、利用者がインターホンで呼び出せば駅係員が遠隔で応対します。交通系ICで残額不足以外の理由により入出場できない場合も、インターホンで駅係員に申し出る運用です。新規通学定期券の購入など窓口でしか完結しない手続きは、自動券売機で定期購入乗車券を購入したうえで定期乗車券発売駅へ向かう形に整理されています(西武鉄道「一部の駅における営業体制の変更について」(2025年2月21日))。手続きの一部を発売駅に集約することで、全駅に窓口機能を持たせずに利用者対応の水準を保とうとする設計思想が見て取れます。

京都市営地下鉄「IC対応型多機能インターホン」

京都市交通局は2017年3月、京都駅・四条駅を皮切りに、無人改札口向けの「IC対応型多機能インターホン」の運用を始めました。駅務室からICカードのエラー処理を遠隔操作できるほか、双方向カメラを使った筆談機能を備え、聴覚に障害のある利用者にも対応できる点が特徴で、今出川駅・烏丸御池駅などへの順次拡大が計画されました(京都市交通局:地下鉄無人改札口に設置する「IC対応型多機能インターホン」の運用開始について)。音声インターホンだけでは対応しきれない利用者層まで想定した設計で、無人化と障害者対応を両立させる試みのひとつといえます。

これら3つの事例に共通するのは、「駅員をゼロにする」のではなく、「常駐から遠隔・拠点集約へ機能を再配置する」という発想です。完全に無人にできる業務と、人の判断が必要な業務を切り分け、後者をコールセンターや近隣駅の係員に集約することで、コスト削減と最低限のサービス水準の両立を図っています。

駅の無人化は経営判断としてどう位置づけるべきか

無人化はもはや「人件費を削るための最終手段」ではなく、駅ごとの利用実態に応じてサービス提供の形を最適化する経営上の選択肢になっています。一方で、その選択が地域や利用者に与える影響は駅ごとに異なります。乗降客数が多い駅を無人化する場合は、遠隔対応システムの応答速度や、緊急時に現地へ駆けつけられる体制の実効性が問われますし、地方の駅であれば、駅という場そのものをどう地域資源として活用するかという視点も欠かせません(この観点は無人駅は地域インフラとしてどう再定義されるのかで詳しく扱っています)。

鉄道事業者にとって重要なのは、無人化を一律のコスト削減策として進めるのではなく、駅ごとの利用者属性・乗降数・周辺の代替交通手段を踏まえて、遠隔システムの機能配分と窓口拠点の集約設計を組み立てることです。国土交通省のガイドラインが求める事前調整の手続きも、単なる規制対応ではなく、無人化後のトラブルやクレーム対応コストを事前に見積もる経営判断の材料として捉えられます。

この設計思想は鉄道に限った話ではありません。小売・飲食・宿泊など他業態の無人化・省人化でも、「常駐スタッフをどこまで削り、どの業務を遠隔・拠点集約に置き換えるか」という切り分けは共通の論点になります。駅の無人化事例が示すのは、無人化の成否を分けるのが機器の性能そのものよりも、遠隔対応に回した業務が実際に利用者の困りごとを解決できているかという運用設計の精度だという点です。導入コストの削減効果だけを見て機器を入れ替えるのではなく、遠隔対応で拾いきれない例外対応をどの拠点がどれだけの応答時間でカバーするかまで含めて設計しないと、コストは下がっても利用者の不満やクレーム対応コストという形で別の負担が発生します。

まとめ

無人駅は2020年3月時点で全国の48.2%に達し、地方の赤字路線だけでなく、1日3万人が利用する都市近郊駅にも広がり始めています。その背景には人件費構造の見直しと遠隔対応技術の実用化がありますが、サービス品質・セキュリティ・障害者対応という3つの課題は依然として残ります。JR東日本や西武鉄道、京都市交通局の事例が示すのは、「駅員をなくす」のではなく「常駐業務を遠隔・拠点集約に再設計する」という方向性であり、無人化を検討する事業者にとっては、コスト削減効果だけでなく、遠隔対応の実効性と利用者への影響をセットで設計することが求められる局面に入っています。

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