無人店舗研究所 UNMANNED RETAIL LAB

空きテナントを無人店舗は救えるか?無人書店・セルフカフェが成り立つ条件と地域課題への効き方

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商店街や駅前では、シャッターが下りたままの空きテナントが目立つ地域があります。借り手がつかない理由はひとつではありません。所有者が貸したがらない、建物が古い、といった事情もあれば、人を置いて店を回せるだけの売上を見込みにくい場所もあると考えられます。一方で、書店やカフェの中には、無人営業を取り入れる店が出てきました。

この記事では、まず空き店舗の実態を公的な調査で確かめます。そのうえで、無人書店とセルフカフェが事業者の公表資料の上でどう成り立っているかを見ていきます。実例を挙げながら、地域の課題にどこまで効くのか、どこに限界が残るのかを事実ベースで考えます。出店を考える事業者のほか、空き店舗対策に関わる自治体や商工会の方の判断材料にもなるはずです。

空き店舗の現状と、空きテナントが埋まらない理由

空き店舗の現状と、空きテナントが埋まらない理由

空き店舗はどのくらいあるのでしょうか。全国商店街振興組合連合会が中小企業庁と中小企業基盤整備機構の協力を得て行った商店街実態調査(令和6年10月1日現在)では、1商店街あたりの空き店舗率の平均が11.30%でした。平均空き店舗率を過年度調査と比べると、前回調査(令和3年度)の13.59%から今回調査は2.29ポイント減少し、空き店舗率が10%以上の商店街も全体の36.5%と、前回調査(43.3%)より6.8ポイント減少しています(全国商店街振興組合連合会)。

改善は見られるものの、平均で1割強、商店街の3分の1強で空き店舗率が1割以上という状態は続いています。

同じ調査で商店街が抱える問題(複数回答・3つまで)を見ると、「経営者の高齢化による後継者問題」が64.9%で最も多く、「店舗等の老朽化」が37.2%、「商圏人口の減少」が31.1%でした。「経営者の高齢化による後継者問題」がある商店街に後継者問題の対策を尋ねると、「策は講じていない」が89.4%と大半を占め、「後継者候補へ教育を実施」は3.2%にとどまります。継ぐ人がいないまま店主が高齢になって店を閉じれば、そこが新しい空きテナントになります。

市区町村の見方はどうでしょう。平成28年度に中小企業庁が実施した市区町村調査には、459件の有効回答がありました。空き店舗が解消されない(されにくい)理由として考えられるものは、「人口の減少、郊外大型店への顧客の流出等、構造的な問題」と「商店街のにぎわいが少ない」が同比率で最も高く62.3%、次いで「所有者に貸す意思がない」が59.0%、「店舗の2階などに人が住んでいる」が48.4%と続きます(中小企業庁)。

ここから分かるのは、借りる側の採算だけが空き店舗の理由ではない、ということです。需要が縮む構造的な要因に、所有者の意向や建物の事情が重なっています。それでも借りる側にとって、通行量が細る場所で人件費を払い続ける負担は重く、運営費を抑えられる無人営業は現実的な選択肢になりえます。ただし、新たに賃料を払って借りる場合は採算の条件が厳しくなることを、次の章で見ます。また、所有者が貸さない、2階に人が住んでいるといった理由は、無人化では動かせません。

無人書店・無人カフェの費用構造と、成り立つ条件

無人書店・無人カフェの費用構造と、成り立つ条件

無人営業の導入が目立つ業態のひとつが書店です。背景には、書店という業態が置かれた厳しい環境があります。経済産業省の「書店活性化プラン」(令和7年6月10日)によれば、出版インフラセンターの集計で書店の総店舗数は2014年の14,658店から2024年の10,417店まで減りました。書店経営を支えてきた雑誌の販売額も、出版科学研究所の集計でピークの1996年は1兆5633億円だったのに対し、2024年は4119億円まで落ち込んでいます(経済産業省)。

こうした環境で、人件費と賃料は大きな圧迫要因になります。日本出版販売(日販)と共同で完全無人書店「ほんたす」を開発した丹青社は、2023年9月のプレスリリースで、本来は書店が成り立つ人口の多い駅立地でも、人件費と賃料によって書店経営が圧迫され、閉店する例が増えていると説明しました。そのうえで、無人運営でコストを抑えつつ、立ち寄りやすい店舗づくりを目指すとしています(丹青社)。

無人化の効果は、人件費の圧縮だけではありません。無人営業化のソリューションを手がけるNebraskaは、出版取次のトーハンを中心とするトーハングループと2023年3月に山下書店世田谷店で実証実験を行い、売上向上と販管費低減を同時に達成したと公表しています。その後、同じ実証の2号店・3号店として開いたメディアライン曙橋店と大山店も含め、各店とも24時間営業化により夜間早朝の購買ニーズに応え、売上が増加したとのことです(Nebraska)。固定の営業時間を延ばす場合、通常は深夜の人員を確保する必要があります。入店管理と会計を機械に任せると、その人員なしで販売できる時間が増えます。費用を削るのと同時に、売上を取れる時間も広げる構造です。

無人営業を支える仕組みも、公表資料で確認できます。ほんたすでは、LINEのデジタル会員証を入退店の鍵として使い、会員ごとに入退店を管理しています。ライブカメラで店内を監視し、緊急時は来店者のスマートフォンを通じてサポートセンターがチャットやビデオ通話で対応し、会計は現金を扱わないセルフレジのキャッシュレス決済です。書店チェーンの三洋堂書店は、システム会社HOUSEIの顔認証ソリューションを入店に使い、営業時間を有人と無人に分けています。各店の営業時間は後の章で紹介します(HOUSEI)。

カフェでも同じ発想が見られます。ウッドデザインパークが運営する無人カフェ「セルフカフェ」は、スタッフと会話することなく使え、受付や会員登録を必要としない完全無人運営のカフェです。ドリンク1杯の購入で時間無制限に使え、全席に電源と高速Wi-Fiを備え、アプリ導入も要りません(ウッドデザインパーク)。接客の工程を省き、滞在の場所を提供することに価値を置いた設計です。

セルフカフェを運営するウッドデザインパークの代表は、ITmediaビジネスオンラインの取材(2025年2月)で、採算の考え方を語っています。代表は、既存の店の一角など追加の賃料がかからない場所に出す場合、機器や警備のランニングコストは1日10〜15杯でも赤字にならないと説明しています。記事は、その2年前に同社がフランチャイズ店舗を1次募集した際のリリースを引き、応募条件が、建物を所有しているか賃貸している建物に20坪以上の空きスペースがあることだったと紹介しています。記事は、セルフカフェのためだけに新たな賃料が発生する場合は難しいと指摘しています。一方、記事によると、家賃を払う直営店の損益分岐点は、家賃に左右されるものの1日約60杯です。数えている費用の範囲が違うため単純には比べられませんが、賃料がかかるかどうかが、必要な杯数に響く大きな要因とみられます。セルフカフェに生まれ変わったスペースとして圧倒的に多いのは、事務所跡だといいます。駅から徒歩15分離れた場所にも出店の余地があると見ており、人通りの少ないエリアにも出店していると話しています(ITmedia)。

ただし、セルフカフェの採算は2025年2月時点の記事で紹介された事業者代表の説明と募集条件で、Nebraskaの売上や販管費の成果も事業者自身の公表です。いずれも第三者による検証ではありません。個店の損益実績を示した公表資料も見当たりません。人件費の圧縮と営業時間の拡大が利益に結び付くかどうかは、立地と客数で決まります。

各地の実例:無人書店・セルフカフェ・他業態の取り組み

各地の実例:無人書店・セルフカフェ・他業態の取り組み

無人書店の実例

都市部の代表例が、東京メトロ溜池山王駅構内の「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」です。2023年9月14日の発表で、9月26日の開店が告知されました。営業時間は平日7時から22時、土日祝は10時から20時で、店内に店員を置かない完全無人の書店です(丹青社)。

住宅地に近い駅前の例が、東京都西東京市の博文堂書店田無店です。2024年12月2日から無人営業を導入し、10時から21時を有人、21時から翌10時を無人とするハイブリッド型で、年中無休の24時間営業を始めました。田無駅北口から徒歩すぐの立地で、Nebraskaはトーハングループ以外への本格展開の第1号店と位置づけています(Nebraska)。

地方の例として、三洋堂書店があります。同社は2024年4月からスマート無人営業を始め、全66店舗のうち34店舗が導入済みでした(2026年5月29日時点)。内訳は、24時間営業の店舗が13店、夜に無人営業の時間を設けて閉店する店舗が15店、朝と夜の両方に無人営業の時間を設ける店舗が6店です。三重県桑名市の星川店は10時から21時が有人で、21時から24時が無人です。岐阜県本巣市の本巣店は10時から20時が有人で、20時から翌10時が無人の24時間営業です(HOUSEI)。その後、導入は2026年9月24日時点で40店舗に増えています(HOUSEI)。三洋堂書店は、コロナ禍を経て続く営業時間の短縮傾向から脱却する狙いを示しています。

セルフカフェの実例

セルフカフェを運営するウッドデザインパーク(名古屋市)は、2026年9月の発表で全国60店舗、月間利用者数9万人超としていました。2026年9月12日には世田谷区に千歳烏山店を開き、京王線千歳烏山駅から徒歩2分の立地で、近隣の学生の自習や社会人のテレワークの拠点になることを目指すとしています(ウッドデザインパーク)。その後の2026年10月の発表では、全国70店舗以上・月間利用者10万人の規模としています(ウッドデザインパーク)。

書店以外の無人店舗

HOUSEIの無人店舗ソリューションは、書店のほか、ジムや古着屋にも採用されています。東京都内のシミュレーションゴルフ設備を備えた屋内ゴルフ練習場では、予約した時間帯だけ入口ドアが開く仕組みで、24時間の完全無人運営を実現していると公表されています(HOUSEI)。

なお、今回確認した公表資料の範囲では、商店街の空き店舗への入居を明示した無人書店・セルフカフェの事例は見つかりませんでした。実例の多くは、駅構内や駅前、既存店の営業時間の延長です。セルフカフェの代表が多いと説明する事務所跡も、空いたスペースの活用ではありますが、商店街の空き店舗そのものではありません。空き店舗や空きテナントの再生に無人営業を使う場合も、入店管理と会計を機械に任せる同じ仕組みを応用する形になります。ただし、賃料が新たにかかる分、採算の条件は厳しくなります。

地域課題の解決と、無人店舗に残る課題

地域課題の解決と、無人店舗に残る課題

無人書店が応えうる課題のひとつに、書店のない地域の問題があります。出版文化産業振興財団の調査をもとにした日本郵便の発表では、2026年3月末時点の無書店市町村は全国で510、全市町村に占める割合は29.3%でした。都道府県別では、長野県が43市町村で55.8%、沖縄県が24市町村で58.5%にのぼります(日本郵便)。経済産業省の資料でも、2024年11月時点の無書店自治体は493で、全国のおよそ28%とされていました(経済産業省)。ただし、今回確認できた無人書店の事例は、駅構内や駅前の店と既存店の営業時間の延長が中心で、無書店の市町村に出店した例は確認できていません。

無書店の割合が高い長野県では、書店の組合に加わる事業者も減っています。長野県書店商業組合の加盟社数は、1995年の170社から2010年に100社、2015年に78社と減り、2025年11月現在は53社です(長野県書店商業組合)。

もっとも、無人化だけが解ではありません。日本郵便とポプラ社は、書店が減少している福島県内の4郵便局で、2026年7月22日から2027年3月31日までの予定で、児童書を窓口で試行販売するとしています。既存の拠点に本を置く方法も、地域と本との接点を保つ手段のひとつです。

空きテナントの側にも、自治体の支援があります。東京都北区は、区内商店街の空き店舗で起業する人に、店舗改修費の3分の2(上限100万円、生鮮三品販売店舗は上限200万円)と、家賃の2分の1(生鮮三品販売店舗は3分の2)を補助します。家賃補助は1年目が月額上限7万円、2年目が月額上限5万円で、令和8年度後期申請の要件は令和8年6月1日から令和9年3月31日までの開店です(東京都北区)。ただし、この制度は初めて事業を行う個人または法人が対象で、ナショナルチェーンやフランチャイズチェーン等の加盟店、支店、既存店舗の営業時間外に間借りして行う事業は対象外です。本記事で取り上げた三洋堂書店のようなチェーン店やフランチャイズ展開の店は、この制度では対象外になりえます。無人営業の店が対象になるかどうかは、自治体ごとの要綱で確認する必要があります。

一方で、残る課題もあります。第一に、無人でも人の仕事はなくなりません。ほんたすには緊急時に対応するサポートセンターがあり、三洋堂書店や博文堂書店田無店は有人時間を残しています。セルフカフェも、監視カメラや警備会社への委託で24時間体制のセキュリティを組んでいると説明されています(ITmedia)。第二に、防犯です。Nebraskaは、実証店舗で顕著な万引被害の増加はなかったと公表していますが(Nebraska)、事業者自身の報告であり、第三者による検証は今回の調査範囲では確認できませんでした。第三に、商店街が抱える後継者問題です。無人化は店を開け続ける手段にはなっても、商店主が高齢化する問題への直接の答えにはなりません。第四に、所有者が貸さない、2階に人が住んでいるといった空き店舗の理由は、無人化では解けません。

各事例を整理すると、次のようになります。

事例 運営形態 無人にしている時間 公表されている背景・狙い
ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店 完全無人の書店 営業時間のすべて 人件費と賃料による書店経営の圧迫への対応
博文堂書店田無店 有人と無人の併用 21時から翌10時 有人と無人を組み合わせた年中無休の24時間営業(導入元Nebraskaの発表)
三洋堂書店(本巣店・星川店など) 有人と無人の併用 本巣店は20時から翌10時、星川店は21時から24時 コロナ禍を経て続く営業時間の短縮傾向からの脱却
セルフカフェ 完全無人のカフェ 営業時間のすべて 作業や勉強の場所としての利用

まとめ

商店街の平均空き店舗率は11.30%(令和6年10月1日現在)と前回調査より下がったものの、なお1割強で、空き店舗率が10%以上の商店街も3分の1強あります。後継者問題や需要の縮小といった構造要因が背景にあります。無人営業は、人件費を抑えながら営業時間を広げられる点で、賃料が別にかからない場所の採算の下限を引き下げる手段になりえます。新たに空きテナントを借りる場合は、賃料がかかる分、必要な客数が上がります。セルフカフェでは、家賃を払う直営店の損益分岐点が1日約60杯と説明されており、数え方は違うものの、賃料のかからない場所の1日10〜15杯とは大きな差があります。書店では三洋堂書店の40店舗(2026年9月24日時点)、セルフカフェでは全国70店舗以上(2026年10月の発表)という導入の広がりが、事業者の公表資料から確認できます。

一方で、商店街の空き店舗への入居を明示した事例は、今回の調査範囲では確認できませんでした。個店の損益も公表されておらず、効果は事業者の報告にとどまります。導入を検討する際は、立地の客数見込みと、商品の補充や遠隔対応に必要な人員を先に試算します。そのうえで、自治体の空き店舗支援の対象になるかを確認し、有人時間を組み合わせるかどうかを決める順序が、無理のない進め方です。無人店舗がつまずきやすい点は、無人店舗の失敗パターンとは?うまくいかない店舗の共通点も参考になります。

【出典・参考】

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