トラックの無人化は、長らく「いつかできたらいい技術」として語られてきました。その位置づけがここ数年で変わっています。高速道路の一部区間に自動運転車専用の走行帯が設定され、実車が夜間に走り、社会実装の目標年度が具体的に示される段階に入りました。
変化の背景にあるのは、技術の進歩そのものよりも、人が足りないという動かしがたい前提です。ここでは、無人化の目標がどう変わり、いま何が検証されていて、どこまで到達しているのかを、公表資料から順に確認します。
なぜトラックの無人化が急がれているのか

運転者の働ける時間には、2024年4月から960時間という時間外労働の上限がかかりました。改正改善基準告示も同時に適用されています。労働時間が短くなれば運べる量も減るため、モノが運べなくなる可能性が懸念されてきました。国の検討会の試算では、何も対策を行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力は2024年に14.2%、2030年には34.1%不足する可能性があるとされています(全日本トラック協会 物流の2024年問題)。
この数字が示しているのは、採用や賃上げでは追いつかない規模の不足です。3割を超える不足を人の増員で埋めるのは現実的ではありません。だからこそ、1人の運転者が担う距離そのものを減らす方向、つまり自動化に投資が集まっています。
効率化だけでは埋まらない差
積載率の改善や共同配送、モーダルシフトといった打ち手は、それぞれ有効です。ただし、いずれも既存の輸送能力をどう配分するかという話で、能力そのものを増やすわけではありません。夜間に走れる時間を人の労働時間の制約から切り離せる自動運転は、この点で性格が違います。無人で走れる区間が生まれれば、輸送能力の総量が増えます。
「隊列走行」から「単独での無人走行」へ変わった目標

以前のトラック自動化の議論では、先頭車を人が運転し、後続車が追従する隊列走行が中心でした。技術的な難易度が低く、人員を減らせる比率も明確だったためです。
現在の目標はここから移っています。国が進めるプロジェクトでは、高速道路周辺の物流施設やサービスエリアなどの中継エリア間で、単独での無人走行を実現することが目指されてきました(豊田通商 レベル4自動運転トラックの社会実装に向けた実証開始)。隊列の先頭に人を必要としない構成です。
目標が変わった理由は運用にあります。隊列走行は、同じ方面へ向かう複数台を同時刻に揃える必要があり、荷主と便の調整が前提になります。単独走行なら、その調整なしに1台ずつ運用できます。実務に載せやすいのは後者だという判断です。
新東名で何が検証されているのか

経済産業省は、国土交通省道路局および自動運転インフラ検討会の関係省庁と連携し、新東名高速道路(駿河湾沼津SAから浜松SA)において、深夜時間帯に自動運転車優先レーンを設定した公道走行の実証実験を2025年3月3日から開始しました(経済産業省 新東名高速道路における自動運転トラックとインフラとの連携に係る実証実験を開始します)。検証項目は4つに分かれています。
自動運転車優先レーン
平日の夜間、22時から5時までの間、第1通行帯を自動運転車優先レーンとして設定し、自動運転トラックが安全かつ円滑に走行できるかを確認します。時間帯と車線を限定することで、交通量の少ない条件から実装を始める設計です。
自動発着
自動運転トラックが自動で駐車し、自動で発進できるかを確認します。地味に見えますが、中継エリアでの積み替えを無人化するには不可欠な機能です。走行中だけ無人でも、発着に人が必要なら運用の人員は減りません。
先読み情報提供システムと合流支援情報提供システム
工事規制情報のように、車両単独では検知できない道路前方の状況を路側機から提供し、適切に受信できるかを現地で確認します。合流支援の情報についても同様です。車両側のセンサーだけに頼らず、道路側からも情報を送る路車協調という考え方が前提になっています。
自動運転インフラ検討会は、国土交通省、警察庁および総務省が事務局となり、自動運転に資する道路構造や路車協調システム、道路交通情報の収集・提供に関する体制や情報通信インフラなどを検討しています。車両メーカーだけでは決められない領域が多いことの裏返しです。
道路会社の側でも準備が進んでいる
自動運転トラックの実証は、車両メーカーと省庁だけで進むものではありません。道路を保有する会社の関与が要ります。
NEXCO中日本は、自動運転時代に向けて安全かつ快適に走行できる高速道路空間を実現するため、建設中の高速道路を使用した路車協調実証実験や、関係省庁と連携した新東名高速道路での自動運転車優先レーンにおける実証実験などに取り組んでいると説明しています。自動運転車優先レーンは、デジタルライフライン全国総合整備計画のアーリーハーベストプロジェクトとして、2025年3月3日から新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SAで運用が始まりました(NEXCO中日本 自動運転への取組み)。
同社はまた、2024年5月13日から7月26日までの約3か月間、新東名高速道路の建設中区間で、自動運転車との路車間通信(V2I)を活用した路車協調実証実験を実施しています。供用前の区間を使えるのは道路会社ならではで、一般車が走っていない環境で通信の検証を先に済ませておく段取りです。
誰が何を担当しているかが公開されている
実証の実施体制も公表されています。実験実施者は国土交通省、警察庁、総務省。協力に経済産業省、静岡県警察、中日本高速道路。参加者としてRoAD to the L4のテーマ3コンソーシアムと事業者が名を連ねています。
役割分担が公開されていることには実務上の意味があります。運送事業者が導入を検討する段階で、疑問の宛先が分かるからです。走行の可否は警察、道路インフラは道路会社と国土交通省、車両と事業モデルは経済産業省。無人化の検討でつまずきやすいのは技術より窓口探しなので、この情報は軽くありません。
実証はどこまで到達したか

2025年10月21日、豊田通商・先進モビリティ・日本工営・みずほリサーチ&テクノロジーズの4社と、いすゞ自動車・日野自動車・三菱ふそうトラック・バス・UDトラックスの商用車メーカー4社が、新東名高速道路で総合走行実証を開始しました。国のプロジェクト「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」のテーマ3事業として、2021年度から進められてきた取り組みの最終年度にあたります(豊田通商 レベル4自動運転トラックの社会実装に向けた実証開始)。
前年度までは、自動発着システム、緊急停止能力、先読み情報支援、遠隔監視といった機能を個別に検証してきました。今回はこれらを一連の流れとして通す段階に入り、区間も新御殿場ICから岡崎SAへ拡張されています。自動運転サービス支援道では自動走行、その他の区間ではレベル2走行という組み合わせで実施されます。
2026年度以降の社会実装が目標
総合走行実証は2025年12月までを予定しており、2026年度以降の幹線道路における自動運転トラックの社会実装が目標に置かれています。あわせて、インフラ整備者と自動運転車両提供者向けの「高速道路でのレベル4自動運転トラック導入の手引き」、物流・運送事業者向けの「自動運転トラック活用ガイドブック」を取りまとめる予定とされています。
実証の成果が文書として残る点は見落とされがちですが、実務にとっては重要です。手引きとガイドブックが出れば、個々の事業者が一から検討せずに導入の可否を判断できます。技術の完成と普及の間にあるのは、たいていこうした標準化の作業です。
商用車メーカー4社が同じ実証に並ぶ意味
今回の実証には、いすゞ、日野、三菱ふそう、UDトラックスの4社が揃って参加しています。国内の大型トラックを供給する主要各社が同じ枠組みで走行実証に加わる構図です。
これは、自動運転トラックが1社の独自機能として出てくる形にはならない可能性を示しています。路側機からの情報を受け取り、指定された優先レーンを走り、中継エリアで自動発着する。この一連の動作は道路インフラ側の仕様と噛み合っていなければ成立しないため、車両側の挙動もある程度まで揃える必要があります。運送事業者から見れば、特定メーカーの車両に縛られずに導入を検討できることになり、乗り換えのリスクが下がります。
裏を返せば、インフラ側の整備が進まない区間では、どのメーカーの車両を買っても無人走行はできません。導入の可否を決めるのは車両の性能より、走らせたい経路が支援道に含まれているかどうかになります。運送事業者が最初に確認すべきなのは、自社の主要ルートと対象区間の重なりです。
無人化が効く区間と効かない区間
トラック輸送を一括りにすると判断を誤ります。区間の性質によって、無人化の難易度がまったく違うからです。
| 区間 | 走行環境 | 無人化の難易度 | 現在の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 幹線(高速道路の中継エリア間) | 歩行者なし、車線が明確、深夜は交通量が少ない | 低い | レベル4の実証段階 |
| 高速の出入りと一般道 | 信号、右左折、歩行者、駐停車 | 高い | 人が運転 |
| 集配(ラストワンマイル) | 住宅街、荷降ろし、対面の受け渡し | 最も高い | 人が運転 |
自動運転トラックの実証が高速道路の中継エリア間に集中しているのは、ここが最も条件の整った区間だからです。歩行者がおらず、進行方向が一定で、深夜であれば周囲の車両も少ない。逆に、集配は無人化の対象としては最後になります。荷物を降ろして受け渡すという物理的な作業が残るためです。
つまりトラック輸送の無人化は、全行程を無人にする話ではなく、幹線だけを切り出して無人化し、その前後を人が担う分業に向かっています。工程を分けて考える発想は工場無人化はサプライチェーンをどう変えるのかでも扱った全体最適の考え方と重なります。技術の到達度を領域ごとに整理した見取り図は無人化技術の進化マップにまとめています。
まとめ
トラック輸送の無人化は、隊列走行から単独無人走行へ目標を移し、新東名高速道路での実証を通じて社会実装の手前まで来ました。平日夜間22時から5時の自動運転車優先レーン、自動発着、路側機からの先読み情報提供。これらを個別に検証する段階を終え、2025年10月からは一連の流れで通す総合走行実証に入っています。
背景にあるのは、2030年に34.1%という輸送能力の不足見通しです。人の増員では埋まらない規模である以上、幹線の無人化は選択肢ではなく前提に近づいています。ただし無人化されるのは幹線区間であって、集配は人の仕事として残ります。2026年度以降に出てくる手引きとガイドブックが、この分業をどこまで具体化できるかが次の焦点になります。