来客対応のために人を配置し続けるのか、それとも受付を無人化するのか。オフィスの省人化を検討する段階で、多くの企業が最初にぶつかるのがこの判断です。帝国データバンクの調査では2026年4月時点で正社員の不足を感じる企業が50.6%にのぼっており(帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月))、専任の受付要員を置き続けられる企業は限られてきました。とはいえ受付システムは製品数が多く、機能表を並べても違いが見えにくい領域です。
実際に主要製品の公開情報をあたってみると、ひとつはっきりすることがあります。料金を横並びで比較できるようにはなっていない、という事実です。各社が公開しているのは金額そのものではなく「何を単位に課金するか」という考え方で、そこが製品ごとに違います。だからこそ、価格表を集めるより先に自社の要件を固めたほうが早く決まります。
この記事では受付無人化システムを4タイプに整理したうえで、料金構造の読み方、顔認証を選ぶ場合の法的な論点、そして自社要件から選定基準を組み立てる手順を順に見ていきます。導入後の運用設計そのものについては受付の無人化とは?顔認証・QR・タブレットで受付を再設計する省人化の進め方で扱っているので、本稿は製品を選ぶ段階に絞ります。
受付無人化システムは大きく4タイプに分かれる

受付システムという言葉はひとくくりで使われますが、来訪者に何をさせるかで設計思想が分かれます。4つのタイプを押さえておくと、製品比較の見通しが一気によくなります。
| タイプ | 来訪者の操作 | 主な用途 | 導入のハードル |
|---|---|---|---|
| タブレット取次型 | 画面から担当者を選んで呼び出す | 一般的なオフィス受付 | 低い |
| QR事前受付型 | 事前送付のQRをかざす | 予約来訪が多い企業 | 低い |
| 顔認証・生体認証型 | カメラの前に立つ | 高セキュリティ拠点 | 高い |
| 内線代替・電話呼出型 | 内線番号をダイヤルする | 小規模拠点・低予算 | 最も低い |
タブレット取次型
受付台にタブレットを置き、来訪者が画面から担当者を検索して呼び出す方式です。呼び出しは内線電話ではなくビジネスチャットに飛ばせるため、担当者が席を外していても気づけます。ラクネコのように手元のiPadをそのまま流用する前提で設計された製品もあり、その場合は端末の台数が課金対象から外れます(ラクネコ)。汎用性が高く、最初の一台として選ばれやすいタイプです。
QR事前受付型
来訪予定者に事前にQRコードを送り、当日はそれをかざすだけでチェックインが完了する方式です。受付での操作時間がほぼゼロになるため、来訪者数が多い拠点や、来訪の大半が事前アポで占められる企業に向きます。日程調整の機能とセットで提供される製品が多く、アポイントの確定と同時にQRが自動送付される流れをつくれます。予約が入っていない飛び込み来訪をどう扱うかは製品ごとに考え方が違うので、そこは個別に確認が要ります。
顔認証・生体認証型
カメラの前に立つだけで本人を判定する方式です。来訪者が何も操作しないため通過は速く、入退室管理と組み合わせれば「受付を通っていない人が奥に入れない」構造をつくれます。反面、後述するとおり扱うデータの性質が他タイプとまったく違うため、導入のハードルは一段上がります。
内線代替・電話呼出型
受付台に内線番号の一覧を掲示し、来訪者に直接ダイヤルしてもらう、最も原始的な省人化です。システム費用はほぼかかりませんが、来訪ログが残らず、担当者不在時の代替経路もありません。拠点が小さく来訪者が日に数人という規模であれば、これで足りることもあります。
料金を横並びで比較できないのはなぜか

受付システムの比較記事を読んでいると価格の一覧表が出てきますが、公式サイトに当たると様子が変わります。金額を明示していない製品が多いのです。
公開されているのは金額ではなく「課金の単位」
ラクネコは料金ページで具体的な金額を示さず、利用人数を入力するシミュレーターと見積もり相談に誘導する形をとっています。ただし課金の考え方は明示されており、基準になるのは利用人数で、拠点数とiPadの台数は課金対象外です。あわせて30日間の無料トライアル、50名以下の利用では2か月目から特定のオプション機能のいずれかが契約必須になること、1,001名以上は別途相談になることが記載されています(ラクネコ)。Acallも同様に料金の詳細は問い合わせ導線に置いており、公開しているのは4,400社以上という導入実績です(Acall)。他社の製品でも、料金表はサイト上に掲示せず資料請求や問い合わせを経て渡す形が主流になっています。
つまり、比較すべきなのは金額よりも課金単位です。利用人数で課金する製品は拠点を増やしても費用が変わりませんが、社員数が増えれば上がっていく。逆に拠点課金の製品なら、多拠点展開でコストが積み上がります。自社がこれからどちらの方向に伸びるのかで、有利な料金体系は入れ替わるということです。
3年の総額で並べ直す
初期費用が無料でも月額が高い製品と、初期費用がかかっても月額が抑えられる製品では、損益分岐点が違います。実務的には初期費用と端末代、そして月額の36か月分を足した金額で並べ直すと判断しやすくなります。タブレット型は既存のiPadを流用できる製品が多く、その場合は端末代を計上せずに済みます。ラクネコが台数を課金対象から外しているのは、手元の端末をそのまま使う前提の設計だからです。
無料トライアルの期間も比較材料になります。30日あれば実際の来訪パターンをひと月分通せるので、机上の機能比較では見えない使い勝手が出てきます。
顔認証を選ぶ前に確認しておく法的な論点

顔認証は来訪者の負担が最も小さい方式ですが、選定の検討材料が他タイプと同じではありません。扱うデータの法的な位置づけが違うためです。
顔の特徴情報は個人識別符号にあたる
個人情報保護委員会は、登録済みの顔の容貌やDNA、指紋といった生体情報を人物の生体情報と照合し、特定の個人を識別できる水準に達した符号を個人識別符号として想定している、と説明しています(個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのQ&A Q1-22)。本人認証が成立する水準に変換された顔特徴データは、それ単体で個人情報として扱われるという意味になります。
来訪者の氏名や社名を紙の芳名帳に書いてもらうのと、顔の特徴量をサーバーに登録するのとでは、社内で必要になる管理の水準が変わります。取得の目的、保存する期間、削除の手順、誰がアクセスできるのかを、導入前に決めておく必要があります。
運用ルールを先に書いてから製品を選ぶ
順序を逆にすると行き詰まります。製品を決めてから運用ルールを作ろうとすると、その製品ができることに合わせて社内規程を書くことになり、必要以上に広い範囲のデータを持ってしまいがちです。先に「何のために、どこまでを、いつまで持つか」を決め、それを満たせる製品を探すほうが結果的に短く済みます。
来訪者が社外の人である以上、顔認証を必須にしてしまうと登録を断られる場面も出ます。顔認証を導入する場合でも、登録しない来訪者向けの経路は残しておくのが現実的です。
自社要件から選定基準を組み立てる

ここまでを踏まえて、比較表を作る前に決めておくべき項目を挙げます。
来訪者数と来訪の型
1日あたりの来訪者数と、そのうち事前アポの比率を数えます。アポ来訪が大半ならQR事前受付型が効きますし、飛び込みや宅配業者が多い拠点ではタブレット取次型のほうが取りこぼしません。数えずに感覚で決めると、使われない機能に課金し続けることになります。
セキュリティ要件と入退室管理の連携
受付を通った人だけが執務エリアに入れる状態をつくりたいのか、それとも呼び出しさえできればよいのか。前者なら入退室管理システムとの連携が前提になり、選べる製品はかなり絞られます。後者であれば選択肢は広く、費用も抑えられます。ここを曖昧にしたまま製品を見始めると、比較軸が定まりません。
有人で残す部分を先に決める
受付の完全無人化を目標に置くと、例外対応の設計が抜けます。システムに不慣れな来訪者、想定外の目的で訪れた人、機器が動かないときの経路。この3つは必ず発生します。無人化が接客をゼロにすることではないという考え方は無人店舗は接客ゼロではない|UX設計で実現する非対面ホスピタリティでも触れていますが、受付でも事情は同じです。何を人が引き取るのかを先に決めておくと、製品に求める要件も自然に定まります。
見積もりを取る前に決めておく3つの数字
相見積もりを比較可能にするには、こちらの前提を揃えておく必要があります。最低限そろえたいのは次の3つです。
1つ目は同時に登録する社員数です。人数課金の製品ではこれが直接価格に効きます。2つ目は拠点数と、そこに置く端末の台数。拠点課金か端末課金かで有利不利が入れ替わります。3つ目は1日あたりの想定来訪者数で、これは製品の上限と運用設計の両方に効きます。
この3つを添えて問い合わせれば、各社から同じ土俵の見積もりが返ってきます。逆にここを空欄にしたまま相談すると、各社が想定を置いて計算するため、比較できない数字が並びます。
契約前に運用の主管を決める
意外に多いのが、導入後に誰が面倒を見るのかが決まっていないケースです。受付システムは総務が契約し、通知先の設定は情報システムが握り、実際に困るのは各部署の担当者、という分かれ方をしがちです。
決めておくべきは、来訪者情報の管理者、通知先の設定変更を承認する人、そして機器が止まったときの一次対応者です。この3つが空白のまま運用が始まると、設定変更のたびに調整が発生し、せっかく削った手間が別の場所で復活します。
導入後につまずく典型パターン
選定段階では見えにくい失敗の形がいくつかあります。
- 担当者が通知に気づかない:チャット連携を入れても、通知先チャンネルの設計を怠ると来訪者を待たせます。通知は個人宛に飛ばし、一定時間で上長にエスカレーションする経路まで設計しておきます。
- 来訪ログを取っているのに使っていない:入館記録は防犯上の価値がありますが、保存するだけでは意味がありません。誰がいつ確認するのかを運用に組み込んでおきます。
- 受付台の物理設計を後回しにする:タブレットの高さ、電源の位置、待機スペース。ここが悪いと機能が良くても使われません。
- 繁忙時間に集中する来訪をさばけない:始業直後や会議の開始時刻に来訪が固まる拠点では、受付端末が1台では足りないことがあります。端末課金でない製品を選んでおくと増設で対応できます。
異常時にどう動くかを事前に決めておく考え方は、店舗運営における無人店舗のトラブル対応設計とも共通します。受付は来訪者にとって企業の第一印象になる場所なので、止まったときの見え方には特に注意が要ります。
まとめ
受付無人化システムは、タブレット取次型・QR事前受付型・顔認証型・内線代替型の4タイプに整理できます。製品ごとの機能差は縮まってきており、選定を分けるのは機能表ではなく、課金単位が自社の成長方向と合っているか、そして顔認証のようにデータの性質が変わる方式を選ぶ準備があるかどうかです。
料金が公開されていない以上、相見積もりを取る前に来訪者数と来訪の型、入退室管理との連携要否、有人で残す範囲を数字と文章で固めておくのが近道になります。要件が定まっていれば、各社の見積もりは比較可能な形で返ってきます。逆に要件が曖昧なままだと、返ってくるのは比較できない見積もりの束です。