無人コーヒー店は成立するのか?障害福祉の課題から生まれた「無人珈琲ふらった」の挑戦

今回は、無人コーヒー店「無人珈琲ふらった」を手がける原さんにインタビューを実施しました。無人店舗を始めた背景から、立ち上げ時の苦労、運営の実態、今後の展望まで、実務目線で詳しく伺っています。

 

Q. まず、「無人珈琲ふらった」がどのようなお店なのか教えてください。

A. 一言で言うと、無人のコーヒー屋です。ただ、いわゆるカフェ的な店舗というよりは、カルディさんのようなコーヒー豆に特化した物販店に近いイメージです。コーヒー専門の無人店舗ですね。

Q. 原さんご自身は、なぜ無人ビジネスでコーヒーという業態を選ばれたのでしょうか?

A.まずお伝えしておくと、実は僕自身はコーヒーが飲めないんです(笑)なので、個人的な好みから始まったわけではなくて。どちらかというと、マーケットがあるという判断が大きかったです。
ただ、店舗を立ち上げた前提として、僕のバックボーンはかなり影響しています。もともと障害福祉の業界で10年ほど事業をやっていて、住まいの支援や訪問介護、訪問看護などを手がけてきました。
その中に、障害のある方が働く就労継続支援の事業もありました。今回の事業は、そうした現場で感じていた課題感からスタートしています。

Q. 障害福祉の現場で、どのような課題を感じていたのでしょうか?

A. 一番大きかったのは、就労支援の現場で働く方に支払える工賃の低さです。1日働いても、これだけしかもらえないのかと思うくらい低いケースもあるんですよね。

その背景には制度上の構造があります。施設には、建物の広さや設備など、認可を受けるための要件が細かくあります。そうすると、施設の中で何かを作って、そのまま高く売るというのが難しいんです。

そこで、製造する場所と売る店舗を分けることができれば、より高い価値を生み出して、働いている方にもっと還元できるのではないかと考えました。
その発想から、最初は新宿で有人のコーヒー店を始めています。

つまり、いきなり無人だったわけではなく、まずは有人店舗から始めて、そこから仕組みを見直して今の形にたどり着いたという流れです。

Q. その仕組みは、現在すでに実現できているのでしょうか。

A. まだ完全には実現できていません。
本当は最初、自社でB型事業所を作るつもりだったんです。ただ、会社全体の事情もあって、今は訪問看護事業の方がかなり伸びていて、そちらにリソースを回す必要が出てきました。
そのため一旦は止めていたのですが、一方でB型事業所側も工賃を上げることに課題を抱えているところが多いんです。そこで、ファックスやDMを送ってコツコツと相談していくうちに何社かと提携し、そちらでコーヒーを作ってもらって、うちや今後増やしていく無人店舗に卸してもらう形に再設計しようとしています。

今後はフランチャイズ展開も視野に入れていて、無人店舗を増やしながら、その供給先として工場側も増やしていきたいと考えています。

Q. なぜ有人ではなく無人店舗という形を選ばれたのでしょうか?

A. もともと新宿で有人店舗を運営していた中で、人がやらなくてもいい仕事がかなりあると感じていたんです。

少子高齢化も進んでいますし、AIも含めて、人がやるべき仕事と自動化できる仕事は分かれていくべきだと思っています。そうやって、人は本当に必要な仕事にシフトしていく時代になるだろうという課題感がありました。
それに加えて、現実的な問題として、有人店舗は初期投資がかなり大きいんです。
新宿の店舗は初期で2000万円くらいかかっていました。新宿という立地だからこそ、そこまでかけないと勝てないという判断もありましたが、このモデルをそのまま大量に増やすのは難しい。そこで省力化できるところを削っていった結果、今の無人コーヒー店の形になりました。

Q. 初めての無人店舗を立ち上げるにあたり、どのような点を重視されたのでしょうか。

A. 完全に無人の店舗を作ったという意味では今回が初めてだったので、かなり勉強しました。
無人店舗って一時期かなり増えましたが、その後かなり潰れていますよね。その中で残っている店舗を見ていると、やはり立地がいい。そこはかなり意識しました。
商圏人口や1時間あたりの通行量など、飲食や小売の大手が見るような指標はかなり細かく見ています。狛江を選んだのも、単に物件が良かったからではなく、強豪がいるエリアで勝てるかを見たかったからです。近くにはカルディさんも含めて6店舗くらいコーヒー店がある激戦区です。
今後は直営をどんどん増やすというより、フランチャイズ展開を考えているので、まず1店舗で「このモデルは勝てる」とオーナーさんに思ってもらう必要がありました。
だからこそ、あえて強豪がひしめく場所に出したんです。

Q. 参入時に特に重視した判断軸は何でしたか?

A. 一番大事にしたのは、お客様にメリットがあるかどうかです。これまで難しかった無人店舗を見ていると、無人なのに高いというケースが多かったんですよね。でも、それでは選ばれにくい。
スーパーが安いのは、さまざまな工程を内製化してコストを削っているからです。うちの場合は、今後障害者の工場と組み合わせる前提で価格設計をしています。さらに最終的には、買い付けも自分たちで行って専門商社のような形になりたいと考えています。そうすることで、もっと安く届けられる可能性があります。
この事業は、単に無人店舗を作りたいからではなく、達成したい理由が明確なんです。そういう目標があるからこそ、ここまで積み上げてこられたと思っています。

味づくりに関しても、企業秘密なので細かくは言えませんが「ここを押さえればお客様に美味しいと感じていただけるクオリティになる」というポイントはかなり意識しています。その部分については、入ってくれているコンサルの方が非常に優秀でした。

Q. 立ち上げ時に苦労したことはありましたか。

A. 数字だけ見ると、最初から利益は出ていました。初月からずっと利益は出ていたんです。ただ、最初に想定していたよりは伸び方がゆるやかでした。最終的には投資開始から2年くらいでかなり伸びてきたのですが、初動は思ったよりいかなかったですね。
やっぱり小規模店は、お客様が積み上がっていく形なんです。1回ここで本当に美味しいと感じてもらえれば、その後ずっと来てくれる。そうやって積み上がって今の数字になっているんですけど、最初は「新しくできたんだな」で通り過ぎられることも多いですし、「すぐ潰れるんじゃないかな」と思われたりもするので、認知を取るまでに時間がかかりました。

 

Q. 集客はどのように行っているのでしょうか。

A. 公式LINEにはかなり力を入れていますし、チラシも打っています。Instagram広告も回しています。やっていること自体は、一般的な店舗の集客施策と大きくは変わりません。
ただ、実感としては圧倒的に立地の力が大きいです。Instagram広告を見ただけで登録することはほぼないと思っていて、実際には一度店を生で見て、「あ、この店か」と認識した上で来店につながっているはずです。そう考えると、やはり立地の影響はかなり大きいですね。
外観もかなり意識しています。看板も強いですし、夜もライトで照らされていて、昼夜どちらも目を引くようにしています。24時間営業という無人店舗ならではの強みがあるので、夜9時、10時以降など、他のお店が営業していない時間にも売れるんです。そこはかなり強いポイントだと思っています。

Q. リピートされるお客様にはどのような特徴がありますか。

A. ほとんどが半径1km圏内の近所の方ですね。その上で、やはりコストパフォーマンスがいいと感じていただけていると思います。
僕らが目指しているのは、スペシャルティコーヒーなのにカルディさんと同等に近い価格で買える状態です。味の質は高いのに値段は近い。その部分に価値を感じていただけているのではないかと思います。

Q. 日々のオペレーションはどのように回しているのでしょうか。

A. 今は新宿のお店で焙煎して、それを届ける形になっています。ただ、新宿の焙煎機が小さいので、もう1晩ほぼ回さないと追いつかないくらいなんです。ありがたいことにかなり売れているので、供給が追いついていない状態ですね。
夜に人が焙煎機を回して、その後商品を届けて、清掃もする。そういう流れなので、ほぼ毎日動いています。運営体制としては、新宿の店舗側と無人店舗側が連携しながら回している形です。完全に切り離して無人だけで動かしているわけではなく、人力と連携しながらやっている感じですね。今のところ、そうしないと回らないです。

Q. 今後さらに売上が伸びた場合、供給体制は大丈夫なのでしょうか?

A. そこをカバーするために、今後はB型事業所など障害者の工場とつながって、製造をそちらに託していく予定です。今のオーナーさんたちの分は、そこが整えばかなりうまく回ると思うのですが、今度は工場が足りなくなるんですよね。なので、今は工場を常に探しています。
製造自体は、良い機械が入ればそこまで難易度は高くありません。焙煎も含めて、今はかなり機械が進化していて、ボタン1つで動かせるものもあります。ただ、場所や設備、タイミングの問題はあります。
今すでにコーヒー工場をやってくれるところとも話をしていますが、もともとはコーヒーをやっていなかった事業者でも、工賃を上げなければいけないという課題を持っているところが多いんです。今は、障害のある方に支払える給料が高いほど補助金が上がる仕組みになっているので、彼らにとっても工賃を上げることが重要になっています。そこに対して、焙煎機を導入して、少し作ってくれれば僕らが買い取りますよという形で営業しています。
反響自体は悪くないです。かなりの数のファックスを送って、1000程度の事業者にアプローチして、20件ほど反響が来ることもあります。ただ、福祉業界は新しいことに一気に挑戦する文化ではないので、導入には時間がかかりますし、補助金のタイミングや自治体ごとの事情もあります。工場側と無人店舗のオーナー側のタイミングを合わせていかなければいけないので、そこは今まさに課題になっているところです。

Q. 無人運営ならではのメリットはどこにあると感じていますか。

A. やはり、人のマネジメントが楽になることですね。もちろん無人の方が難しい部分もあります。短い時間で何をやってもらうか、遠隔でどこに注意するかなど、設計や管理の難易度は高いです。ただ、それをきちんと整理して仕組みにしてしまえば、その後の運用で管理側にかかるコストは減ります。そこは無人の大きなメリットだと思います。

Q. 防犯面ではいかがでしょうか。

A. 意外かもしれないですが、万引きは年1回くらいしか起きていません。もちろん街の雰囲気もあると思いますが、コーヒーという商品自体が嗜好品で、転売しにくいというのもあると思います。鮮度もありますし、大量に持っていってもそんなに高く売れるものではないですからね。
ただ、それだけではなくて、店として無人感を出しすぎないようにしています。監視カメラはもちろんありますが、それ以上に、お客様との距離が遠くなりすぎないように意識しています。ノートを置いたり、気遣いが伝わるものを用意したり、InstagramやLINEでも人が関わっていることが伝わるようにしています。無人店舗って無機質になりがちなんですけど、そこに人がいる感覚を出すことが、結果として防犯にもつながっていると思います。

Q. 今後の展開について教えてください。

A. 僕は、100億稼ぐことよりも、1000年続くとか、何百年続くことに価値があると思っています。少子高齢化という社会課題と、障害福祉の業界側の課題の両方を解決していくようなモデルは、かなりしっかり作れたと思っています。
これを一過性のものにするつもりはありません。全国に出せるモデルだと思っていますし、文化や世の中を変えていけるような事業にしたいと思っています。

Q. 無人店舗ビジネスの今後については、どのように見ていますか。

A. 意外と大事なのは、業態そのものよりも「誰がやるか」だと思っています。ちゃんとお客様の思考を読み取って、臨機応変に対応しながら、最初の設計からお客様にメリットがある形を作れているかどうか。運営側が楽だからという理由だけで進めるのではなく、あくまで消費者にとってしっかりメリットがある形にして、それを継続的に改善できる会社が入ってくるのであれば、かなり勝ちやすいと思います。
残っている無人店舗を見ても、うちや無人古着屋さんのように、お客様に明確なメリットがあるところは残っています。最初の戦略設計から改善までをきちんとやれる人間や組織がやるのであれば、業態によっては無人化が当たり前になるものも出てくると思います。

最後に、これから無人ビジネスに参入する方へメッセージをお願いします。

A. 結局は、消費者にとってのメリットとデメリットをしっかり考えることがすべての根本だと思います。僕らがどんなビジョンを描いていても、お客様には関係ないんですよね。お客様が生活の中で、何かしら「ここを選ぶ理由」を持てるようにしなければいけない。
そこを設計した上で、現実性、実現可能性、持続可能性まで全部考え切ることが大事です。
店舗を出すだけならリスクが低く見えるかもしれませんが、そこまで全部設計するとなると、お金もかかるし、いろいろなリスクも出てきます。そこまでやり切る気概を持てるのであれば、勝てるんじゃないかなと思います。

 

【店舗概要】
商号:無人珈琲ふらった
所在地:〒201-0014 東京都狛江市東和泉1丁目16−7
24時間営業・無休
URL: https://www.instagram.com/mujin_coffee_flutter/

新店舗掲載情報
2026年6月、新店舗が三鷹(三鷹市下連雀3-42-18
)にオープン予定!
無人珈琲ふらった公式Instagramをフォローして続報をお待ちください!